第48話 獣人

 組合に行き、数名に会うことができたが採用できる人はいなかった。

 理由としては、アルトピを離れるつもりがない人が半数。残りは、借金があったり人格に問題がありそうな人達だった。

 今になって思うと、祖父は移住可能な人達をよく数人も集めてくれたものだ。



 さて、こうなるとやはり奴隷を買うことを選択することとなる。

 技術を持った良さそうな人がいればいいが、そうでなければ一から育てなければならない。

 よく物語では、孤児院に支援し子供を引き取ったりするが、あれってどうなのだろう。

 感謝し忠誠を誓ってくれるというならありなのだが、善意でってことになると個人的にはあまり理解できない。元々あまり子供が好きでもないし。

 多少お金に余裕がある時に、募金箱にお金を入れたりなんかは経験があるが、僕はそんなに善人じゃないんだよね。たぶん。


 そうこう考えていると、奴隷商に着いた。

 無骨だけど、立派な外観。当然外に警備の人もいる。

 中に入ると、入り口にいた案内役に促され商談スペースへと移動する。イメージ的には銀行かな。

 少し待っていると初老の男性が来て、向かい側に座った。


「本日は、どのような者をお探しでしょうか?」

「もの作りの技術を持った者。できれば若手。候補が少なそうであれば、器用な者」

「なるほど、承知いたしました。候補となる者を別室に集めますので、しばらくここでお待ちください」


 担当の男性が席を外したので、先ほどから気になっている騒がしい客の会話に耳を傾ける。

 どうも噂のパーノポーから来た奴隷商が、こちらの奴隷商に奴隷の買取を要求しているようだ。

 ここ割とオープンなスペースだけど、個室等に行かずここで商談してていいのかと思ってしまう。

 内容としては「わざわざここまで連れて来たので、もっと高く買い取ってくれ」というありがちなもの。こちらの奴隷商としては、パーノポーから逃げて来ていることを知っているので買い叩きたいのは当然か。


 どんな奴隷さんなのかと、身を乗り出して覗く。

 一瞬、耳と尻尾を見て(犬かな)と思ったが、どうやらキツネの獣人のようだ。

 父親と思われる男性が顔もキツネで、それで把握することができた。

 女性と子供たちは、耳と尻尾のみの獣人。四人家族かな。

 尻尾の一部が剥げてたり、健康状態は悪そう。

 子供の一人が、こちらに気付いて目が合ってしまった。

 慌てて顔を引っ込める。

 でも、なんとなく気になるのでまた覗くと、まだこちらを見ていた。


「先生。気になるんか?」

「んー。少しね。体調悪そうだし、売れなきゃどうなるのかなーってね」

「処分されるかもしれんな」

「やっぱりそうだよね」


 どうやら彼らの商談は決裂したようだ。

 立ち上がり、出て行こうとする奴隷商に向かってジジイが話しかける。


「のう。ワシがそやつらを買ってやってもええぞ」

「ほっ、本当か⁉」

「お客様、困ります」

「ちゃんとこの店でも買うから、見逃してくれんか?」


 ジジイのいきなりの行動に驚いていると、こちらの担当も戻ってきた。


「こちらでの購入をお約束頂けるのであれば、問題ございません」

「支配人! ですが……」

「私の決定に問題があると?」

「い、いえ……」


 こっちの担当の人、支配人さんだったみたい。

 ジジイは、先ほど聞こえていた希望金額を獣人を連れた奴隷商に渡し手続きを始めた。


「先生。主人は、先生にするからこっち来てくれ」

「え⁉ 噓でしょ?」

「ワシは先生には嘘を言わん。はよはよ」


 なんだかよくわからないうちに、奴隷契約のスキルを終え主人となってしまった。

 

「ほれ、お前ら主人はそっちじゃ。わかったな? 先生の獣好きには困ったもんじゃな。前から薄々感じておったが、目つきが違うからのう」


 たしかに犬や猫とか好きなんだけど、目つきでわかるってどういうことだろう。

 グレイやオスカーを見たが、目を逸らされた。

 今すぐ鏡で顔を確認したい……。

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