第47話 隣国の噂

 お茶が用意され、飲みながら祖父と伯父さんの会話をきいていると隣国『パーノポー』の名前が出てきた。

 以前、冒険者の噂で「戦争の準備をしているんじゃないか」というのがあったのだが、そのパーノポーが蝗害こうがいによって戦争どころではなくなっているらしい。


 蝗害といえば、元世界でも何年か前に話題になった。

 ものすごい数のバッタ系の虫が、植物を食い荒らし食料生産に大打撃。植物性の物なら何でも食べてしまうとか言われていたはず。恐ろしい。

 植物がなくなれば、人間のみならず草食動物も被害にあう。必然的にそれを狙う肉食動物も……と考えると、相当まずい状況だろう。


 どうやら備蓄していた食料も多くが食い荒らされていたようで、食料不足価格高騰は免れないそうだ。

 商人としては、稼ぎ時。

 しかしながら、稼ぎばかり求めると当然恨まれる。ならばと、食料支援をすれば感謝され評判は上がるだろう。

 要するに、立ち回りのうまさ、商人としての腕が問われる状況というわけだ。

 ただし、商人が表立って個人で支援すると方々から恨まれる可能性が高い。

 こういった場合、権力者。ようするに国や貴族にある程度任せるのが常道。

 その中で、いかに商会の名を売るかだ。



 パーノポー国内もかなり荒れてきているようだ。

 当然だろう、近いうちに食べ物がなくなる恐怖。


 なぜこんなことに。

 何が悪かったのか。

 神に見放されたのでは?

 誰のせいだ!

 もしや、戦争を仕掛けようとしていたせいでは?

 等々。


 そういった感じで、国内で争いも始まっているようだ。

 当然略奪も起こっているだろう。


 我が国ハンブルクからすると、幸運といえる状況ではある。

 ただし、バッタ共は反対方面に向かって進んでいるようだがいつ方向を変えるかわからない為、油断はできない。

 それにパーノポーや、この先被害にあう国から賊や難民が押し寄せる可能性もあり、単純に喜んでいる場合ではない。


 アルトピやオストロイも、パーノポーから離れているとはいえ少なからず影響は出て来る。

 すでに商人の多くは財産を持ち国外に逃げ出しているらしく、一部はこちら側にも流れてきているようだ。


 さすがに隠居したからと見過ごすこともできない為、祖父は予定よりも長くアルトピに残る選択をした。

 そこで僕はどうするかだが、魔道具の在庫問題もあるし、祖父とは反対に早めに戻ることを視野に入れ行動することにした。



 翌日、以前の予定を変更してまずは服を買いに行く。

 仕立てなんてしている余裕はないため、既製品というか中古を購入予定。

 若干、質の良さそうな上下にベストで完成。色は、地味目な物を選んだ。

 グレイはもう少し派手な物を勧めてきたが、断固拒否。

 身に着けていたものをどうするか聞かれたが、当然持って帰る。

 あとは、靴も新調。

 お小遣いじゃ足りないので、経費ってことでお願いします。



 見た目も程よくなったところで、商人ギルドに向かう。

 ここでは、人材の紹介も行っているようだ。

 冒険者ギルドが日雇いバイトなら、こちらは契約社員みたいなイメージなのかな。

 掲示板に貼られた物を見るが、こちらは求人側みたい。

 受付に向かい、物づくりの技術を持った人を紹介してもらう。

 若い人の中に気になる人が数人いるが、文字での簡易的な情報だけでは判断できない。

 詳しい情報が欲しい場合は職種ごとの組合に行く必要があるようで、候補者の名前を控えてそちらへ向かう。



 最初からそっちに案内してもらった方がよかった気がするので、グレイに言ってみると僕にいろいろと経験を積ませるように祖父から指示されていたらしい。

 祖父の期待には申し訳ないが、別にヘイル商会を大きくするのが僕の目標ではないので、こういった機会は今後それ程ないと思う。

 それなりに稼いで、好きに開発して、パン太やリリーと遊べればそれでいいのだ。

 

 

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