第83話 貯水池
大きい水車塔を建造するために、専用の水路を用意し始めた。
水量次第では、祖父の屋敷のものでは水が溢れる可能性もあるからね。
水路はそのまま下流に繋げるつもりだけど大丈夫だろうか。
今までは、上流からの水を利用後そのまま下流へと戻していたが、水車塔が完成した暁には増量が見込まれる。
川幅的には問題ないように思えるが、水位が多少変化するだけで浸水してしまう場所も出て来るかもしれない。
近場は自分でチェックするとして、残りは冒険者に依頼かな。あとで、グレイに話をしておこう。
思い立ったが吉日。早速視察に向かう。
お供は、護衛のオスカーとキャリーさん。あとパン太一家。
クロ丸達は、例の卵が気になってるようで付いてこないみたい。
本当はパン太達もお留守番予定だったが、あんみつトリオが追いかけて来ちゃって仕方なく一家揃っての行動になってしまったようだ。
道中子供達があちこちするので、全然進まない。
時々木に向かって、爪とぎなのかナワバリ主張なのかガリガリとやっている。
体を擦り付けるのは、臭い付けなんだっけ。もちろんマーキングも欠かさない。
リリーは単独行動で、大き目のネズミを捕って来た。
僕らがいるので安心して任せているのかと思って見ていたが、子供達を守るための周辺警戒も兼ねている気がする。さすが、母親。
目標の半分程で、今日の探検は終了。
いつもと違う景色に、あずき達も大満足だろう。
リリーを呼び戻し、家へと引き返す。
帰ったら洗ってあげないと、足がいつも以上に泥だらけだ。
翌日、昨日目星を付けていた家から少し下流へ向かった場所に貯水池を作り始めた。
この貯水池には、いくつかのメリットがある。
まず、一旦貯める場所さえ存在すれば何か起きた場合、水源である魔道具を止めてしまえばいいので大事故は防げること。
異世界だと魔道具などがあるので必要ないが、緊急時に利用できること。
あと、プール代わりに泳ぐ場所として利用できる!
想像すると、そこにいる僕は水着を履いていない。異世界に水着って売っているのだろうか? 無さそうだな。
過去の日本を想像すると
脱線したが、結局櫓のようなサイズで塔を作るとブロックがたくさんいるわけで、その製造過程でついでに貯水池にしちゃえばいいなってことだ。
たぶん、水路を作る時に出来るブロックじゃ足りないだろうし。
ジジイがいないので、一人で黙々とブロックを作成していく。
今日は、熊獣人のオーリーにも手伝いをお願いしている。だって、熊って力強そうだもん。
「ここに貯水池ができるんですね」
「そう。泳いだりも出来ると思うよ」
「服を乾かすのが、大変ではないですか?」
「え? 上半身裸で、下着だけだからそうでもないような」
「じょ、上半身裸ですか⁉」
オーリーは、顔を真っ赤にしながら熊耳をピコピコさせて慌てている。どうやら上半身裸は、恥ずかしいらしい。
なんだろう「上半身を見せるのは下賤の者」という反応ではなさそうだし、コンプレックスでもあるのだろうか?
気にしてこなかったが「この国にそういった文化がないから」という理由も考えられるか。
あわあわして手が止まっていたので「無理に泳げと言うつもりもないので各自好きにすればいい」と説明して、彼を落ち着かせた。
ある程度ブロックが溜まったので、荷車で運んでいく。僕は、後ろから押す係。
塔の建設予定地にブロックを下ろし、ちょっと休憩。
想像しながら上を見上げ、下流の方へと視線を移す。
突然、頭の中にぼんやりとヨーロッパの水路橋が浮かんできた。
あれって確か、橋の上を船で移動できるんだっけ。
そう考えると、作りたくなってくる。
さすがに現時点では無理なので、ちょっと妄想だけ楽しみたい。
目的地に向かって、緩やかに傾斜させていれば動力はいらなそう。
ただ角度を間違えると、事故が容易に想像できる。
だけど、移動は楽そう。
戻りは、あちらからも同じようにすればいいわけだけど、どう考えても個人でやるものではないな。
無理とは思いつつも「塔に上がるのは、水車を利用してゴンドラを動かせば楽になるかな」などと、しばらく一人の世界を楽しんだ。
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