第69話 商人の目

 祖父が六輪車に興味を持っているのでどういった物か説明したのだが、ダメ出しをされてしまった。

 何がダメなのかと言うと、まず六輪車が権力者の目に留まった際に「貴方様の能力では走らせることができません」と説明することが大変ということ。

 自分用だと考えていたので、気にしていなかった部分。「どうせ御者が運転するのに」とはいかないようだ。貴族には乗馬が好きな方も多いらしいし「自分で操縦したい」と思う人も出て当然か。自分でもそうだし。


 オストロイ子爵様は立派な方のようなので、ちゃんと話せば理解して頂けそうな気はするが、他の方達もそうとは限らない。最悪殺されちゃうみたいだし、周りが比較的平和で忘れそうになるけど異世界って怖い。

 残念だが六輪車の正式運用は、魔石での運用が出来るようになってからにする。仮に超高級品になっても貴族なら平気でポンっとお金を出すようなので、材料を気にせず細々と改良を加えたりしていきたいとは思う。元々庶民なので、この辺りの感覚が未だによくわからない。

 せっかく完成させたし、敷地内専用で小型のカートみたいな物でも作って遊ぼうかな。それぐらいなら大丈夫だろう。



 六輪車の運用はダメとなったが「動力部分は使えるのでは」ってことを言われた。

 たしかにその通り。車を目標にしていたので、そちらに意識が向いていなかった。

 しかしこれ、何にでも応用出来そうなだけに困る。

 魔石の運用でも馬と併用すれば、荷物の積める量が増えそうだ。動き出しが一番エネルギーを必要とするで、そこを馬にがんばって貰えばよさそう。ただ、魔石消費と増加した積載量による儲けが釣り合うかは不明だが……。これは保留かな。


 あと、形状から思いついたのが『ハンドミキサー』だ。クリームを作るのが楽になる。それから挽肉もいけるかな。でも、ミキサー系って便利だけど洗うの大変なんだよな。便利で最初だけ使うけど、しばらくすると使われなくなるってのをよく見かけたし。


 もう少しパワーがあればいいのだが、そこが足かせとなり「水車でよくない?」と思ってしまう。想像しよう。

 負金属の発動体で実用レベルの物が出来れば、櫓か塔のような物を作りそこから水を流し水車を回すことが出来そう。イメージするとプールの滑り台的な感じ。場所が固定されるデメリットはあるが、こちらなら固定した魔道具で運用出来そうだ。

 少々脱線してしまったが、今後は動力部分の別の活用方法を模索していきたいと思う。生活の中で思いつくこともあるだろう。



 六輪車の件は多少残念な気持ちもあるが、正直言うとそれほど凹んではいない。

 完成させた達成感みたいな物はあるし、考えてみると僕はほとんど遠出をしない。

 豚に真珠というやつだろう。

 原点に返り「やはり騎乗生物だ!」と言いたいが、いまだに出会いがない。

 白馬の王子様を待つようなことはやめて、やはり牧場や騎乗生物を売っているお店に行くべきだろうか。

 今なら「出会いが無い」と言って嘆いていた職場の先輩の気持ちもわかる気がする。

 今の僕に当てはめると、牧場は街コン会場なのかな。多対一なので少し違うか。


 馬鹿な想像をしながら厩舎に行き、祖父の所有する馬たちを見る。

 多少騎乗の練習をしたことがあるので、ここにいる馬たちは知り合いだ。

 僕に気付いてジムくんが来てくれたので、一緒にお世話をする。

 改めて思うが、自分で選んだ子ではないので少し距離を感じてしまう。自分のせいなのだけどね。

 ジムくんにお礼を言って厩舎を後にする。



 敷地内を散歩しながら、先ほど考えていた櫓を建てるのによさそうな場所を考える。それなりの物を作ろうとすると、当然広いスペースが必要となる。

 大量発生の時、堀も作ってしまったし塀の外側に作るしかなさそうだ。

 

 ウンウンと唸りながら考えていると、閃いた。

 負金属の発動体がうまくいった場合、土を固めた物の強度次第では売れるのではないだろうか。イメージとしてはレンガ。

 最初左官屋さんのような作業を思い浮かべていたが、 鉱山関連の開発で需要はあるしレンガのようなブロック建材もよさそうに思える。

 どうしても売る物を、魔道具として考えてしまう癖がついていたが、今回六輪車関連の祖父の話もあって別の視点での発想も生まれた。

 祖父には感謝だ。


 年長者、ベテランの言葉は時として偉大である。

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