第92話 役目
アカツキに導かれるように、古びた神殿内部を訪れてしまったが、今のところ何も起ってはいない。
アカツキは一度鳴いた後、エリード様の像を嘴で突いていたが飽きてしまったのかやめてしまった。「不敬な鳥」と思ったが、保護者として責任を問われても困るので見なかったことにした。
現在は、一緒に神殿内部を移動している。
少しドキドキしながら探索中なのだが、静かすぎて怖いくらいで本当に何もない。
本来なら管理者の生活するスペースでも存在しそうなものなのだが、見当たらない。
可能性としては、中心の箱に作られた扉の中なのだろうけど、押してみたが開く様子はない。
仮に開いたとして、地下に部屋が存在するのだろうか。想像すると、特殊な構造に少しだけワクワクする。それと同時に、何か出てきたらと思うと恐ろしくもある。
一通り見て回ったが、結局めぼしい物は見つけられなかった。
壁沿いの像が、他の地域で信仰される神であるらしいとわかったくらい。
ちなみに父さん曰く、アクース教の信仰する神の像はないらしい。もちろん父さんは全ての神を把握しているわけでもないし、エリード様のように現在多く見られる像とは若干姿が違う可能性もあるけどね。
すでにお昼を過ぎているので、若干申し訳なさを感じつつも神殿の入り口付近で食事をさせてもらう。
さすがに内部で肉を温め始めるわけにはいかないし、僅かばかりの配慮。
入り口の石畳に敷物を広げ、その上に食べ物を置く。
手作りサンドイッチを咥えながら、腹ペコ鳥類のみなさんへご奉仕。父さんは、自分でやれるし放置。
水は木製の深皿で共用してもらう。さすがに複数もって移動するのは大変なのでね。
「多く持って来たから少し余りそう」
「神様たちにでも、奉納するか?」
「ん-。腐ったりして、呪われないかな?」
「神ならば怒りはしないだろう」
「そうかな? じゃあちょっと行ってくる」
タタタッと小走りで内部に戻る。お供はハルジ。
エリード様の像は少々高い位置にあるため、ハルジに手伝ってもらう必要がある。
像の近くで乗せてもらい、ワンちゃんの足元へ奉納。
お祈りのために、一旦降りて手を組み目を閉じる。
「よければどうぞ。ネギ類は入ってません」
そう告げると身体が熱くなったように感じ、以前の神の啓示のように頭の中に言葉が浮かび上がって来た。
『役目を終えし時 またここを訪れよ』
え⁉
今までと違う内容に、動揺してしまった。
目を開き、周囲を確認するが特に変化はない。
『まもなく 災い 芽吹き 大地 荒れる』
『多く 小さき力 集いし刻』
『安息の地へと 変わる』
先日までの内容はこうだ。
たった数日で何が違う……。
場所?
わからない。
激しい鼓動よりも、今は先程の言葉に意識が向く。
「どういうことでしょうか?」
自分に問いかけるようにでた声は、語尾に近づくほど弱くなってしまった。
返事はない。
軽く深呼吸をして、心を落ち着かせる。
再度目を閉じて、祈りの姿勢をとる。
(もしもし。聞こえますか?)
今度は、声に出さず祈るように語り掛ける。
『まだその時ではない』
ちゃんと返事が来たことに驚きつつ(聞こえてんじゃん)と心の中で悪態をつく。
伝わってしまったかもしれないが、構わない。
まともに返事をしない相手は嫌いだ。それが神であっても。
その後、何度か語り掛けたが、返事はもらえなかった。
まだその時じゃないんだってさ。少し腹が立つ。
神の話では、またここに来ることになるようだし、入り口で父さんも待っているので戻ることにする。
父さんに「遅かったな」と言われてしまったが、高い位置なので置くのに手間取ったのと、お祈りをしていたと言ってごまかした。
あまり遅くなると、留守番している家族も心配するので、そのまま真っ直ぐ自宅へと飛んで帰る。
帰宅途中、風の冷たさもあってか少し冷静になれた。
今思うと、頭の中に浮かんできた言葉の色というかイメージが、今までと違った気がする。
以前のものは転生時からだったのを考えると、今回のはエリード様もしくはワンちゃんの言葉ということなのだろうか。
なんとなく女性の印象を受けたので、エリード様のような気がする。
あの神殿はなんなのか、僕の役目とはなんなのか。
ハルジの背中の上だけでなく、家についてパン太達を撫でながらもずっとそのことを考えていた。
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