第91話 古びた神殿
ハルジが我が家に来てから練習を続けていた結果、ある程度うまく乗りこなせるようになってきた。
僕が成長した部分は、おそらく微々たるもの。
単純にハルジが優秀で、ある程度信頼関係が出来た為に、こちらの意図を汲んでくれるようになっただけだと思う。
こうなると、空の散歩を楽しみたくなる。
定番のサンドイッチを自作して、お弁当を用意。
ハルジ達にも、肉を準備し午前中の内にいざ出発。
僕のお供は、クロ丸ちゃちゃ丸にアカツキ。
パン太達は、飛べないので当然お留守番。
あと護衛代わりに、ジュンに乗った父さんが付いてくる。珍しいね。
普段通りだとオスカーが付いてくるのだけど、ハルジが拒否して乗せたがらない。彼らなりに何か基準があるのだろう。僕だって、仲良くない人をおんぶしたくないし気持ちはわかる。
その内、仲良くなってくれるといいんだけど。
二匹のヒッポグリフは、ジュンを先頭に駆け出し空へと飛び立つ。
今日の目的地は、山脈方面。
鉱山開発がどうなっているか遠目に見たり、出来れば山脈の上の方に行って、あちら側がどうなっているか見てみたいとも思っている。
鉱山を遠目に見るのは、領主様に変な疑いをかけられないため。どこかの偵察だと、勘違いされても困る。
「はー。さすがに、引っ越してから随分と経つし、この辺りも変わってしまったな」
「うん。もう村みたいになってる。人も多いね。前の家が立派に変わってるけど、やっぱり父さんは寂しかったりする?」
「どうだろうな。寂しいような、そうでないような」
鉱山方面へ移動する途中、以前の我が家の上空にて一度速度を落とし父さんと会話する。
ゆっくり飛んでもらっているのに、移動しながらだとまともに会話できないんだよね。
「ここを見ていると、ミグマやバウが小さかった頃を思い出すな」
なんとなく呟いた。そんな一言だった。
駆け落ちして、辿り着いて、子供が出来て……。
僕以上にいろいろな思い出が、ここにはあるのだろう。
母さんもヒッポグリフに乗る練習をしてもらい、また二人でここに来てもらうのもいいかもしれない。
ハルジやジュンがいれば、またいつでも見に来れるので次の目的地へと向かう。
鉱山に近づくと、その周辺が随分と発達していることに驚く。
さすがにオストロイ程ではないけれど、町と言えなくもない。
外れの方にある木造の小屋はおそらく初期の建物で、割と立派な建物は後から作られたのかな。例の発動体で作られた建材も多く用いられていそう。
離れているのではっきりした大きさはわからないが、人の身長よりも高い壁も出来ている。
忙しそうに動き回る人も見えるし、噂通り活気に溢れているようだ。
「噂には聞いていたが、すごいな」
「うん。想像以上だった。そのうち、オストロイより立派になったりして」
「あり得るかもな」
警備の人員も多そうなので、軽く見渡した後すぐに移動。
しばらく山脈方面へと向かうと、アカツキが先行し始めた。
呼びかけたけれど、そのまま進んでしまうので追いかける。
何か見つけたのかもしれない。
空を飛ぶ魔物でなければ良いのだが……。
念のためと厚着をしてきたのにも関わらず、かなり寒さを感じ始めた頃。
山脈手前。比較的周囲より低い山。
山頂といえる辺りはそれほど荒れた様子もなく整っており、そこには何か建造物の様なものが見える。
アカツキを追いかけるようにして、そこに降り立つ。
古びた建造物。神殿?
風化とまでは言えない。
経年劣化した建物は、破損した部分がありながらもどこか神秘的な雰囲気を感じさせた。
いくつも並んだ円柱のせいか、離れた場所からみるとまるで猛獣を閉じ込めるための檻のようにも見える。
「父さん、これ何だろう?」
「俺にもわからんが、古い神殿のようだな」
すでにアカツキは、建物内部へと侵入してしまっているので、警戒しながら皆で進む。今のところ、生き物の気配は感じない。
中は広い空間になっていた。
奥の壁沿いには、何体もの石像が並ぶ。
中心に倉庫、もしくは小部屋のような四角い箱のようなものがあり、その上部には女神エリード様と犬の像が並んでいた。
オストロイの神殿と違うのは、その位置関係だろうか。まるで犬の方が主役であるかのように中心となっていて、エリード様が脇に控えるように立っている。
アカツキは、エリード様と犬の像の横に並びこちらを向いて一鳴きした。
ここがアカツキの目的地のようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます