第58話 久しぶりの日本! まずは彩香のうち②
「なるほど。水族館にいたはずが、いきなり異世界にいた、と。それで帰ることも出来ないから、異世界で暮らしていたのね」
「そうそう!」
「それで、その異世界では五年とちょっと過ごしていて、で、その間に弘樹くんと結婚して、楓ちゃんが生まれて――あ。ちょっと待って! じゃあ、わたし、おばあちゃんってこと⁉ えー‼ 嘘でしょう!」
香織さんはそこで頭を抱えた。
「えへへ。ごめんね? でもだって、向こうってみんな早く結婚しているんだよ。それに医療技術も発達していないから、若いうちに産んだ方がいいって思って!」
「それはそうよね。……まあいいわ。楓ちゃん、かわいいし。
「そうそう!」
「でも、わたしのことはおばあちゃんって呼ばせないで。『香織ちゃん』で!」
香織さんはそうきっぱりと宣言した。
そう言えば、香織さんに最初に会ったときも「わたしのことは名前で呼んで。『香織』って言うの」って言われたっけ。
「その異世界って、魔法がある世界なのよね?」
「うん。でも、魔法を使える人は限られているわ。普通の人はほとんど使えないわよ」
そう言えば《最果ての村》の人たちで、魔法を使える人って見てないなあ。
「彩香は使えるのよね?」
「うん。たぶん、世界を渡ったときに附与されたんだと思う。あたしも、弘樹くんも。あ、弘樹くんの能力は魔法じゃなくて、戦士の能力だけど」
「彩香の魔法、ここでも使える?」
「たぶん。使えると思って、こっちに来たんだよね。魔法の力がないと、戻れないから。〔フリーズ〕」
彩香は紅茶を凍らせた。
「うん、こっちでも使えるみたい!」
「便利ね! じゃあ、楓ちゃんも使えるの?」
「楓は未知数なんだ。でも、楓は世界に――アルニタスに呼ばれたわけじゃないから、能力の附与はないと思う」
アルニタス?
「彩香、アルニタスって?」
僕は彩香と香織さんの会話に口を挟んだ。
「あたしたちがいる異世界の大陸の名前。アルニタス大陸って言うの。それで大陸全部がアルニタス王国なのよ」
「知らなかった……」
「まあ、《最果ての村》にいるとね。単に『王都』とか『王家』としか言わないし」
「へえ」
「あたし、ルミアナの顧問になったじゃない? それから、この間のアンデッド事件以来、ちょくちょく王都にも行っているのよね。その中で知ったの。歴史とかも」
なるほど。
「ねえ、どうして彩香と弘樹くんが、そのアルニタスに呼ばれたの?」
「それはまだ分からないわ。調べている最中なの。ただ、きっと、何かを求められて呼ばれたのだとは思う」
「なるほど。――ところで、こっちにはどうやって戻って来たの?」
「あ、それはね、王様から借りた禁断の書があってね、そこに載っていたのよ。世界を渡る魔法陣の書き方が」
と言って、彩香は香織さんに禁断の書を見せた。
「あら、これ、アニタス語?」
「そう。でも、そんなに難しい言語じゃないのよ。英語より簡単! あのね――」
と言って、彩香は言葉の説明を始めた。香織さんはふんふんと目を輝かせて聞いていて、そして「なるほど、分かったわ!」とか言っている。……彩香の映像記憶能力は香織さんからの遺伝なんだと、僕は理解した。
「へえ、おもしろいわね!」
「でしょう?」
「魔法陣を発動させるのは、魔力なのね」
「そうそう! でも、時間の設定がうまく行かなくて、ちょっとずれちゃったの」
「いいのよ、それは。五年以上も戻って来ない方が心配だし」
「うん」
「でも、時間の設定は、もしかして……」
僕は、香織さんと生き生きと話す彩香をなんだか眩しい気持ちで見ていた。
五年以上も、よく頑張ったよね。彩香もそして僕も。
なんだかあっという間だったけど。
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