第34話 日本語を忘れないで
ところで僕たちは、家では日本語で話している。
でも、外では現地語で話す。
「あたし、楓にも日本語、覚えて欲しくて!」
彩香はそう明るく言うと、記憶から絵本を作り、楓に読み聞かせていた。
「あー、絵がうまく描けないっ」
とか言っていたけど、僕は充分だと思うなあ。多少変でも(彩香、ごめん!)お母さんの手作りの絵本って嬉しいと思う。
彩香が記憶から作った絵本には、僕にも懐かしい絵本がたくさんあって、なんだかあったかい気持ちになったんだ。
「あたしね、いつか日本に帰れるようになると信じているの。だからね、そのときのために、楓にも日本語を覚えておいて欲しいんだよ」
彩香は笑ってそう言う。
僕もそうだといいなって思っているよ。それから、彩香が言うと実現するんじゃないかな? って思えるから不思議だね。
でまあ、日本語を教えている過程で、楓にも映像記憶があることが分かったってわけ。
まだ小さいからしゃべる言葉はたどたどしいけれど、僕たちと話すときと、友だちとしゃべるときと、きっちり言語を使い分けていて、びっくりしてしまう。言語の習得がむちゃくちゃ早いんだ!
「日本語も、だけど、こっちの言葉もちゃんと教えてあげないとね」
彩香は、友だちと遊ぶ楓を見て、そんなことも言っていた。
彩香が楓に教えたのは、日本語という言語だけではなかった。
日本の文化や習慣も教えていた。以前、シリルくんやロラちゃんたちと遊んだ凧あげもしたし、最近では折り紙もしていた。
「ねえ、そんな薄い紙、どうしたの?」
「うーん、ちょっと魔法で特別にね?」
そう言えば、手作り絵本も何やら書きやすそうな紙に書いていた。
ここでは紙は貴重品だから、この紙を売ったら《最果ての村》も潤うんじゃないかと思ったけど、きっと彩香が魔法で作ったもので他の村人は作れないから、そういうことはしないんだろうな。
凧あげや折り紙は人気の遊びで、うちにはしょっちゅう子どもたちが来ていてにぎやかだった。
「そう言えば、オレリアとアルベンのところも子どもが出来たんだって?」
「うん、そう!」
「ヒルダとジルはもうすぐ結婚するし、他の薬草隊のみんなも結婚しそうな雰囲気なんだよね?」
「ふふふ。幸せだよね!」
と彩香が言って笑うと、楓が「しゃーわせ」と言って笑う。
二人の笑顔があまりにかわいくて、僕こそほんとうに幸せな気分になった。
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