第33話 幼なじみ

「彩香、呪文、増えたよね」

「うん、ベルンハルト様がルミアナの領主所蔵の書庫を自由に見ていいって言ってくださっているから。貴重な魔法書がね、見られるんだ」

 彩香は《城塞都市ルミアナ》の領主ベルンハルト様と奥方のアベール様の不妊問題を解決して以来、ルミアナで顧問として働くことが増えた。


「べるさま? かえで、ふぇるにあいたいな」

「じゃあ、今度いっしょにルミアナに行く?」

「うん!」

 楓はスプーンを振り回しながらうなずいた。

 フェルとは、ベルンハルト様の息子で、正式にはフェルディナントという名だ。楓とは同い年。ベルンハルト様そっくりのきれいな男の子で、瞳はベルンハルト様と同じターコイズ、髪はアベール様と同じウェーブがかかった黒茶だった。


「あのねえ、かえで、るねんちいく」

「ルネちゃん?」

「うん、あいす、いっしょたべる」

 ルネとは村長のイヴォンさんの孫娘。つまり、ディオンさんとシーラさんの娘で、二人の息子のシリルくんの妹だ。ルネちゃんはシリルくんと同じ、小麦色の髪とオリーブグリーンの瞳をしていた。


 楓とフェルディナント様とルネちゃんは同い年の仲良しだった。もっとも、フェルディナント様とは遠く離れているし、フェルディナント様は領主様の息子という立場でもあるから、なかなか会えなかったけれど。


「るねに、あいす、もってくの」

「うん、分かった! シリルくんにもあげなきゃね。ディオンさんたちにも。弘樹くん、残り全部持って行っていい?」

「いいよ」

「じゃあ、〔ストップ・タイム〕!」

「彩香、今の何?」

「アイスの時間を止めたの! 溶けたら困るから!」

 彩香はかわいい顔でにこっと笑った。


 あ、や、溶けたら困るよ。

 でも、時間に関わる魔法をそんなふうにさらっと使えるなんて、ちょっとびっくりなんだけど?


「どうせなら、宿屋に寄って、ロラちゃんにもおすそわけしたいわね」

「ロラちゃ、すき!」

 楓はロラちゃんのことをお姉さんみたいに思っているようだった。

「じゃ、行こうか。いってきます、弘樹くん!」

「いってきま!」

「いってらっしゃい」

 そっくりのふたりは元気よく、出かけて行った。ペガくんに乗って。ペガくんはこれまで彩香しか乗せなかったけど、楓なら乗せるようになっていた。


 幸せだな。

 いつか、日本にいる家族に会わせたいな。彩香と楓を。

 彩香のことは、日本にいるときに会わせているからもう知っているけれど、僕たち結婚したんだよ、彩香は僕の妻だよって紹介したいな。――なんか照れるけど。



 ところで、楓のことで分かったことがある。

僕と彩香がこの世界に来たとき、「ステータスオープン」と言うと、自分のステータスが見れたし、翻訳機能なんかもついていて、とても便利だった。今でももちろん便利に使ってる。

 でも、どうやら楓にはこのステータスがないらしい。

「世界を渡るときに付与されるものじゃないかな?」

 と彩香は言っていた。

 だから、楓がどんな能力を持っているのか確認することは出来なかった。そして見ている限り、今のところ、彩香みたいな白魔導士の力も僕みたいな戦士の力もないようだった。


 ただでも、彩香の映像記憶の力はばっちり受け継いだようだ。

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