第2章 ほんわか異世界ライフと「夢は叶うんだよ!」

1.アイス、食べたいな!

第32話 忘れてたけど、アイス食べてない!

 ある夏の日、彩香が突然言った。


「ねえねえ、弘樹くん」

「なに?」

「あたしさ、忘れてたんだけど、アイス食べてない! 前に作ってくれるって言ったよね?」

「ああ、そう言えば。あ、でも、冷凍庫がないから、彩香が凍らす魔法が出来ようになってからって話じゃなかったっけ?」

「うん、そう言えばそうだったよね!」

「出来るようになったの?」

「うん! ね、楓」

 彩香は隣に座っている楓に笑いかけた。彩香そっくりの楓は「うんっ」と言って笑った。


「まま、こおりつくった」

 楓は二歳になっていた。

 めちゃくちゃかわいいんだ、これが!

「楓もアイス食べたいの?」

 楓に話すときはどうしたってやさしい声になる。

「あいす、たべる!」

「うんうん、アイス食べようね」

 僕は楓をだっこしながら言った。


「ところで、彩香。いつ凍らす魔法、出来るようになったの?」

「んー、暑かったから! ねー、楓。かき氷、おいしかったよね」

「うん、んまかった!」

 彩香は楓と顔を見合わせて笑い合った。

「いいなあ。僕も食べたかった!」

「今度ねっ。で、あたし、アイス食べたいな! よろしくね、弘樹くん!」

「よろしくね、ぱぱ!」

 あー、なんか、彩香が二人になったみたい。



 彩香の記憶にはちゃんとアイスのレシピもあって、時間はかかるけどそんなに難しくないなと思った。

「ねえ、楓、いっしょに作る?」

「あいす?」

「そう」

「つくるつくるー!」

 そんなわけで、僕は楓といっしょにアイスを作ることにした。

「あたしは食べる係ね!」

 彩香はにっこり笑った。彩香は子どもを生んでも、もちろんかわいい。そして僕は相変わらず彩香には逆らえないのである。


 生クリームは彩香の魔法で、牛乳を遠心分離させて作った。

「じゃあ、アイス、作りますか!」

「あい!」

 僕は楓といっしょに、卵の黄身と砂糖を混ぜた。

「かしゃかしゃするんだよ」

「かしゃかしゃ」

 くう! 彩香のミニチュア版が泡立て器持って「かしゃかしゃ」!

 僕はその愛らしさに顔がにやけた。

「ぱぱ、かしゃかしゃ!」

「はいはい、かしゃかしゃ、しようね」

 卵黄と砂糖をよくかき混ぜたあと、鍋に牛乳と生クリームを入れて温めた。そこに、卵黄と砂糖をかき交ぜたのを少しずつ入れて、攪拌した。


「彩香、これを冷ましてから冷凍したいんだけど」

 僕たちのことを嬉しそうに見ていた彩香に声をかける。

「凍らす魔法かければ冷めるんじゃないかな? 〔フリーズ〕」

 彩香はボウルに手をやった。

「三時間、冷凍するんだって」と僕が言うと、彩香は「えー、三時間も無理だよお」と言い、「〔セイブ・タイム〕!」と言った。

 え? その呪文は何?

「えへへー。時間を早めました! 三時間、経ったよ!」

 なんて便利な!

 僕は楓とボウルの中身をかき混ぜた。

「三十分おきにかき混ぜるのを三回やりたいんだけど?」

 彩香は〔フリーズ〕と〔セイブ・タイム〕を繰り返し、僕と楓はかき混ぜるのを繰り返し、アイスは完成した!



「ままー、たべよー」

「おいしい! ありがとう、弘樹くん!」

「ぱぱ、おいし! ありとー」

 彩香と楓が目をきらきらさせて食べているのを見ると、頑張ったかいがあるな、と思う。……もっとも、なんとなく魔法を使った彩香の方が大変だった気もするのだけど。

 僕もアイスを食べた。

「おいしい!」

「でしょ!」

 彩香はにこにこして言った。

「でしょ!」

 楓は彩香のマネをして言う。

「今度、僕が食べれなかったかき氷作ってよ」

「うん、いいよ!」

「いいよ!」


 僕たちはとても幸せな気分でアイスを食べた。

 彩香と二人の生活に楓が加わって。僕は、元の世界を思い出すことが増えた。家族になったからかな? 楓を見ていると、僕は弟や妹を思い出す。

 彩香はどうなんだろう?

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