スピンオフ

竜王の舞い

 あたしはピンクドラゴンのピンクちゃん。名前は彩香ちゃんがつけてくれたの。ご主人さまは弘樹くん。彩香ちゃんは親友だから。

 あたしは弘樹くんと空を飛ぶ。弘樹くんはドラゴンに乗るのが上手。

 あのね、彩香ちゃんだけには教えてあげたんだけどね、あたしはピンクドラゴンの王さまの血筋を引いているの。おじいちゃんがピンクドラゴンの長だったんだ。でも、あたしのお母さんが人間に捕まって。そうしてあたしは人の手で育てられた。

 でもそんなに悲しい感じじゃないんだよ。ドラゴンネットワークで、繫がることが出来たし、思念伝達も出来るから。ニンゲンは概ねやさしくしてくれたしね。


 ある満月の夜、あたしはなんだかむずむずした。

「遊ぼう」「遊ぼう」って、遠くから声がした。

 あたしは家を出た。

 赤銅色の満月から、藍銅鉱色の空に光が滲み出ている。

「遊ぼう」「遊ぼう」

 うん、遊ぼう。

 あたしは月明かりのもと、踊る。竜王のダンスを踊る。

 これはよろこびの舞い。

 だって、彩香ちゃんに子どもが生まれる。もうすぐ。

 うれしいうれしいうれしい。


 ニンゲンはあたしたちドラゴンを基本的には丁重に扱った。でも、ママは鎖に繋がれた生活に病んでしまって、いくつか卵を産んだあと、寿命を待たずに死んでしまった。ドラゴンは長寿で、三百年くらい生きるのに、百年も生きなかった。人に飼われているドラゴンはみな、鎖で繋がれている。それはドラゴンの寿命をうんと短くする。

 でも、彩香ちゃんはあたしに鎖をつけなかった。

 あたしは自由。

 自由な意志で、あたしは彩香ちゃんと弘樹くんのそばにいる。そして、もうすぐ生まれるふたりの赤ちゃんのそばにいたい。

 ああ、うれしい。彩香ちゃんと弘樹くんの赤ちゃん。

 赤銅色の満月を通して、あたしはピンクドラゴンの国を見た。

 行ったことのない、あたしのルーツの国。少し、切なくて哀しい。


「遊ぼう」「遊ぼう」

 あたしはまた、竜王の舞いを舞う。よろこびの舞いを。

 いつか、ピンクドラゴンの国に行きたくなるかもしれない。だけど、いまはここで彩香ちゃんと弘樹くんと、生まれてくる赤ちゃんといっしょに暮らすんだ。

 あたしは月光を浴びながら、込み上げるよろこびと幸福感に浸る。

 竜王の舞いの波動が空気を伝わり、村中がよろこびのうたで満ちていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る