第31話 結婚して、そして

 結婚式はすごく盛り上がった。たくさんの食べ物、たくさんの飲み物、たくさんの花。村の人たちだけでなく、ピンクちゃん関係で繫がりのある近隣の村の人たちもお祝いしてくれた。


 ジョアナさんはたくさんおいしいものを作ってくれたし、ロラちゃんはブーケを作ってくれてなんだかじんとしたんだ。ヒルダたちは「アヤカ、いいなあ。あたしも結婚したいー! 幸せ分けてー!」って彩香に抱きついていたし、ディオンさんは「奥さんの言うことはちゃんと聞いた方がいいぞ」って耳打ちしてきた。……たぶん、もうそれは今でも聞いてるけど。



 彩香は当日、とても見事な純白のドレスを着た。繊細な刺繍と飾りが縫い付けられた、上品だけどかわいらしさのある美しいドレス。

「それ、どうしたの?」

「ベルンハルト様とアベール様がお祝いにくださったの。当日は身分を考えると行けないからって。どう?」

「うん、すごくきれいだ」

「弘樹くんのもあるよ」

 彩香のドレスに合わせた正装。ちょっと照れるけれど、特別な日だからね。


 みんなにお祝いされて、僕も彩香もすごく幸せな気持ちになった。

 シリルくんはロラちゃんの手を繋いでいたし、ヒルダだってジルと寄り添っていた。オレリアはもうすぐアルベンと結婚するって言っていたし、シリルくんには弟か妹が出来るらしいよ! なんだか村中が幸せで満ち溢れているような気がした。

空はどこまでも青く、雲一つなかった。豊かな自然が広がるこの世界。


 僕は今日の日のことを忘れない。

 きっと、彩香も。

 


 結婚式で盛り上がって、そしてあのそのあの……まあ、とにかく盛り上がったんだ。

 そして、僕と彩香の間には赤ちゃんが出来た。

「よかったー! ここでは早く子ども産んでおきたかったんだよね。出産は命がけだからね。若い体力で妊娠、出産しないと!」

「う、うん」

 僕はそっと彩香のお腹に手をやった。

「ベルンハルト様とアベール様の赤ちゃんと同い年になるかな。シリルくんの弟か妹とも」

「そうなの?」

「うん、たぶん」

「女の子かな?」

「どうだろう?」

「女の子だといいな!」

 ……きっと女の子なんだろうな。彩香にそっくりの。



 季節が巡り、僕たちは三人家族になった。

 彩香の希望通り、子どもは女の子だった。かえで、と名付けた。

「なんで楓? かわいい名前だけれど」

「うち、庭に楓の木があったんだ」

「ああ」

 僕はもう遠くなってしまった、日本を思い出していた。胸がぎゅっとなるような思い。


「いつかさ」

「うん」

「いつか、帰れるかもしれないでしょ? そうしたら、楓の木を見せて、あなたの名前とおんなじだよって教えてあげたいの」

「……うん、そんな日が来るといいね」

「希望は捨てちゃ駄目だよ、弘樹くん!」

「うん」

 ここでの暮らしもなかなか楽しいけれど、もしも帰れるなら、幸せでいるよって伝えたい。


「あたしね」

「うん」

「こっちとあっちを行き来出来たらいいなって思っているの」

「そう出来たらいいね」

「そのためにも、ベルンハルト様と仲良くなったの。あのね、領主所蔵の貴重な魔法書を見せていただけるようになったんだよ。すっごく勉強になるよ! 見て」

 彩香が[フライ]と言うと、身体がふわっと浮いた。

「うふふふ。多分、高く飛べるよ。それに、あたし、ペガくんなら少し飛べるようになったんだ」

「そうなの?」

「そう! だからね、弘樹くん」

「うん」


「夢は叶うんだよ!」



        第1章 僕は彩香に逆らえない  了

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