第30話 家を建てる
僕たちは《迷いの森》のすぐ近くの広い土地に家を建てることにした。何しろ僕たちにはドラゴンとペガサスがいるから、広い土地でないと困るのだ。《迷いの森》の近くはあまり誰も住みたがらないので、土地は広くて安かった。
「それにね、《迷いの森》は豊かな森だよ。《金の森》に負けてない」
という彩香の台詞を信じるなら(いやきっとそうなんだろうけど)、《迷いの森》の近くに住むことは森の恵みを受けるメリットもあった。
僕たちの家は村の人みんなで建ててくれた。ディオンが特に張り切ってくれてて、シリルくんも「オレも手伝うよ」って手伝ってくれたんだ。
平屋で、ピンクちゃんの部屋とペガくんの部屋もある。……なんだか「小屋」というよりも「部屋」って感じなんだよね。イメージとして。
ピンクちゃんもペガくんも、今では《最果ての村》にはなくてはならない存在になっていた。ピンクちゃんは「貸しドラゴン業」として活躍していたし、ペガくんは彩香といっしょに《城塞都市ルミアナ》に行って、……何してるんだろう?
「ねえねえ、彩香」
「何、弘樹くん」
「彩香、《城塞都市ルミアナ》にペガくんとちょくちょく行っているじゃない?」
「うん!」
「そう言えば、何しに行ってんの?」
「ああ、あのね。あたし、不妊治療の相談受けているの」
「ふにんちりょう?」
「うん。ベルンハルト様、奥様のアベール様との間に子どもが出来なくて、悩んでいらしたでしょ? だからね、タイミングが大事なんですよって、ほら、この間のうどん試食会のときに教えて差し上げたの」
あ。
もしかして、何事か耳打ちしているって思った、あれ?
「でね、弘樹くん」
「うん」
「要するに、あのすごい魔法の逆をやればいいのよ」
……すごい魔法? ――あ。
僕は顔が真っ赤になって口元が緩むのを感じたので、慌てて口元を手で覆った。
「そ、そっか」
「うん、そうなの! で、アベール様の排卵日を割り出していたの。でね、ナイショなんだけど、赤ちゃん出来たんだよ!」
「へえ、それはよかった!」
「ふふふ。あたしも欲しいからね、赤ちゃん!」
「う、うん」
僕はさらに顔が赤くなってしまった、絶対! ……話題、話題を変えよう。
「あ、あのね、彩香」
「ん?」
「ベルンハルト様はペガくんと仲良しかな?」
「んー、仲良しっていうか、外交のときにペガくんもいっしょにいるようにしているんだよ」
「は? 外交?」
僕、ペガくんに嫌われていて(絶対に嫌われているから!)、もしかしてペガくんは男性全般に対して敵意を持っているのかと思って訊いてみたら、思ってもみない答えが返ってきて驚いた。
「ペガくんといっしょだと、外交がうまくいくらしいのよ。虎の威を借る狐? ――まあ、それは冗談だけど。ベルンハルト様は優秀だし」
「ああ、それでちょくちょく《城塞都市ルミアナ》に行っていたんだね」
「うん、そう! あたし顧問になったみたい」
「は?」
「んー、相談役? みたいな? 翻訳機能使えるのも役立ってるよっ」
相談役……なんだろう? 翻訳機能があれば、彩香ならあっという間に他言語でも話せるようになるだろうなあ。……僕には無理だけど。
僕たちは出来上がった家で結婚式をすることになった。
ガーデンパーティ形式でやろうね、楽しみだね! と彩香が言った。
ピンクちゃんは「おめでとう」と言うように鳴き、ペガくんはたぶん「ふんっ!」って言ったと思う。
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