第70話 だって夏休みなのよ!②

 楓と織子おりこちゃんがピンクちゃんの部屋の方に行ったので、僕もついていくことにした。

 するとそこには、クリストフ王子とフェルディナント様もいて、さらにルネちゃんとシリルくん、ロラちゃんもいた。

 ピンクちゃんは《最果ての村》の人気者で、特に子供たちに人気があって、さらにその子ドラゴンたちはみんなの注目の的だった。だからよく村の子どもたちはドラゴンを見に来ていた。今日は、学校はお休みだったしね。


「シルくん!」

 織子ちゃんが呼ぶと、シルくんが織子ちゃんの近くに来た。

「ねえ、肩に乗ってくれる?」

 シルくんはちょっと首をかしげてから、ふわっと飛んで、織子ちゃんの肩に乗った。

「きゃあ! やったあ!」

 ミドリちゃんを肩に乗せた楓と、他のみんなで拍手をする。

「いいなあ」とシリルくんたちは口々に言った。


「オレ、ボレアスに出会ったのは、ボレアスがもう大きくなってからだもんなあ」

 クリストフ王子は実に羨ましそうに行った。ボレアスはクリストフ王子にの隣に来ていて、頭をクリストフ王子にすり寄せた。

「ボレアス! うん、大丈夫。オレ、ボレアスがオレのドラゴンで嬉しいよ」

「ぼくもいつかじぶんのドラゴンがほしいなあ」

 フェルディナンド様がそう言うと、

「フェルは近いうちにドラゴンもらえると思うよ。次の誕生日プレゼントじゃないかな?」

 と、クリストフ王子が言った。

「うん! たのしみ」


「ねえ、フェル。フェルがドラゴンもらったら、あたしものせてね?」

 ルネちゃんがフェルに言うと、フェルは「もちろんだよ!」と言った。

 その様子を見ていた織子ちゃんが言った。

「ねえ、クリストフ王子」

「なに?」

「クリストフ王子のボレアスに、あたしを、乗せてくれる?」

「……いいよ」

 クリストフ王子はぶっきらぼうに、でもちょっと頬を赤らめて言った。

「ボレアス!」

 クリストフ王子はボレアスの頭を撫でた。

「じゃ、乗る?」

「うん!」


 織子ちゃんはクリストフ王子に手を引かれて、ボレアスに乗った。

 ……織子ちゃん、乗り物酔いはしないのかな?

 僕は彩香の体質を思い出して、ちょっと心配になった。

 織子ちゃんは、彩香が最初にピンクちゃんに乗ろうとしたときみたいにドラゴンにうまく乗れないようなこともなく、難なくすっと乗ったし、大丈夫かな? そう言えば、ペガくんには乗って飛んでいたっけ。平気そうだったよな。ペガサスの方が揺れないとは言うけど……。


 僕はとりあえず、クリストフ王子といっしょにドラゴンで飛ぼうとしている織子ちゃんと見守った。二人の会話が聞こえてきた。

「……オレのこと、クリスって呼んでいいから」

「え?」

「だから、特別にクリスって呼んでいいよって! ……ボレアス、飛んで!」

 ばさっという羽ばたきの音とともに、ボレアスは空に飛び上がった。


 僕は上を見上げて、ボレアスに乗ったクリストフ王子と織子ちゃんを見た。叫び声が聞こえないようだから、織子ちゃんは彩香みたいに乗り物酔いはしないみたいだ、よかった。

 空中で二人は何か楽しそうにおしゃべりしているようだった。

 ボレアスは、僕の目に入るところをゆったりと飛んでいた。

 ボレアスは、ここに来た当初は鎖に繋がれていた影響で、目に精気がなかったけれど、随分元気になったし身体の艶みたいなものもよくなった。ピンクちゃんにドラゴンネットワークのことを教えてもらっているらしく、ドラゴンの知識も増えたみたいで、それはボレアスの自信にもつながったみたいだ。


「オリコちゃん、いいなあ」

 ロラちゃんが言い、シリルくんも「いいなあ」とつぶやくので、僕はロラちゃんとシリルくんをピンクちゃんに乗せて飛ぶことにした。

 地表に降り立つと、楓はルーの肩に乗っていて、ペガくんもそばに来ていた。ルネちゃんとフェルディナント様が「ぼくたちもピンクちゃんにのせて!」と言うので、ロラちゃんとシリルくんを下ろして、次はフェルディナント様とルネちゃんを乗せることにする。

 織子ちゃんたちはまだ空を滑空していた。


「楓はいいの?」

「うん、楓はルーの肩に乗っているから!」

 楓はいつまでルーの肩に乗れるんだろう? などと思いながら、僕はまたピンクちゃんを飛ばした。

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