3.それぞれの特別

第69話 だって夏休みなのよ!①

 ポータルが完成し、彩香は織子おりこちゃんに言った。

「さ、織子、帰るよ!」

「や! 帰らない!」

「織子! ママたち、心配しているよ?」

「織子だって、彩香ちゃんいなくなって、すっごく心配したもん!」

「……それは、悪かったわ。でも、それとこれとは話が違うでしょう」

「違わないもん! 織子、ここにいるんだもん。楓ちゃんと仲良しだし、ルーともピンクちゃんともシルくんともペガくんとも仲良くなったし、それに」


「それに、クリストフ王子がいるから?」

「彩香ちゃん!」

 織子ちゃんは真っ赤になって、彩香をぽすぽすと叩いた。

 彩香は笑いながら、「もう、しかたがないなあ」と言った。

「だってさ」

「だって?」

「織子、夏休みなのよ! 夏休みはここで過ごすって決めたの!」

「はいはい。じゃあ、パパとママにそう伝えてくるよ」

「――ありがとう、彩香ちゃん」


「じゃ、あたし一人で帰るけど――あたしいなくても、大丈夫よね?」

「うん!」

「弘樹くんとルーの言うこと、ちゃんと聞くのよ」

「うん! お手伝いもちゃんとするよ。織子、ごはん作るの得意だし!」

「う。そこは負ける……」

「それに、なんとなく言葉も分かるし」

「うんうん」

 てなやりとりがあって、彩香は「じゃ、弘樹くん、ルー、よろしくね!」と言って、日本に一人で一時帰国(?)した。



 僕は彩香を送り出し、ふうと息を吐いた。

「さみしい?」

 ルーが言った。

「うん、なんか変な感じで。彩香がルミアナに行ったり王都に行ったりしていないときもあったんだけど、ポータルで向こうに行ってしまうっていうのは、この世界の中で離れているのとは違う感じがするんだ」

「……そうだな。オレもこの間、ヒロキたちが向こうに行ってしまったとき、とてもさみしかったよ」

「……うん。でも、帰ってきたよ。ここが帰る場所だから、今は」

 僕はルーとしみじみと肩を抱き合った。


 そこに、楓がやってきた。

「ねえ、みてみて!」

 楓は肩に子ドラゴンのミドリちゃんを乗せていた。

「わあ、いいなあ!」

 織子ちゃんはそのようすを見て、目をきらきらさせて言った。

「いいでしょう。のる? ってきいたら、のってくれたの」

「シルくん、あたしの肩に乗ってくれるかなあ?」

「ためしてみようよ!」

「うん!」

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