第68話 犬猿の仲ではなくて②
「ねえ、彩香」
「ん?」
「織子ちゃんとクリストフ王子って、犬猿の仲?」
「何言っての、弘樹くん! 仲良しなんだよ!」
「そう言えば、楓もそんなこと、言ってたっけ」
「でしょ? ……クリストフ王子、なんだか生き生きとしているじゃない?」
「うん」
アンデッド事件を引き起こしたこともあり、また何より「王子である」という自覚から、クリストフ王子はかなり緊張していたんだと思う。
「ところで彩香。あの辞書って、いつの間に作っていたの?」
「ああ、あれはね、最初は楓のために作っていたんだよ。でも、楓、辞書なんて要らなかったみたい。だけど、何かの役に立つかなって思って、作り続けていたんだよ。まだ追記が必要だけどね」
彩香はハンバーガーをほおばりながら、にっこり笑った。
「なんでもいいけど、織子ちゃん、さすが彩香の妹だよね。あっという間になじんでいるし、言葉も聞き取れているみたい」
「うん、あたしといっしょで、映像記憶能力あるし、それに言語理解早いみたいね」
木崎家(彩香の実家)は、天才の集まりか⁉
ステータスの翻訳機能を使っても、僕には難しかったなあ。七歳児に負けている……。あ、それを言うなら既に四歳の楓にも、言語能力では負けているような気がする。僕、ドラゴン語やペガサス語なんて分からないし。
クリストフ王子は九歳だ。村長さんの孫のシリルくんや宿屋のジョアナさんの娘のロラちゃんと同じ年。織子ちゃんは七歳だけど、妙にしっかりしていて、クリストフ王子と対等に話しているのもおもしろかった。フェルディナント様は領主様の息子だけど、ルネちゃんと楓は小さい頃からの友だちだから、気兼ねなく話している。だけど、クリストフ王子はやはり王族だから、フェルディナント様もルネちゃんも、それから学校のみんなも、なんとなく気を遣って話していた。だから、もしかしたら、織子ちゃんみたいに臆せず話すような子が来て、クリストフ王子はほっとしているのかもしれない。
「ねえねえ、織子さ、すぐにアルニタス語、話せるようになりそうね」
彩香が僕をつついて言う。
「え? もう?」
まあ、聞き取りがだいたい出来ているらしいことも驚きなんだけど。
「だって、ときどき単語がアルニタス語になっているのよ」
「へえ……」
「まあ、英語より簡単だしね!」
にっこり笑う彩香に、僕は曖昧に頷いた。
僕は結構、苦労したんだけどな。
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