第67話 犬猿の仲ではなくて①
夕ごはんは、丸く焼いて横で半分に切ったパンに、ハンバーグや卵焼き、レタス、きゅうり、アボカド、チーズ、ベーコンなどを自分で挟んで食べるハンバーガーだ。
たくさん用意して、テーブルいっぱいにお皿を並べる。
「わあ、すごいー!」
「おいしいんだよ! パンにね、すきなのをはさんでたべるの」
楓が自信たっぷりに言う。
「弘樹くんは、お料理上手なんだね」
「いいでしょう!」
織子ちゃんの言葉に、楓と彩香がにっこりと笑う。
「ヒロキはすごいな、なんでも出来て」
クリストフ王子が席に着きながら、言った。
「あら、あたしもお料理は得意よ!」
織子ちゃんが日本語で応える――え? ちょっと待って。
「織子ちゃん、クリストフ王子が何を言っているか、分かるの?」
「うん、なんとなく? しゃべるのはまだ難しいけど。彩香ちゃんに教えてもらったし! あ、辞書もあるんだよ」
と織子ちゃんは手作りの本らしきものを見せてくれた。
彩香の字でこまごまと書かれている。
……いつの間に、こんなものを。
僕が彩香を見ると、彩香は片目を閉じて「すごいでしょ?」ってアピールした。うん、すごいよ、ほんと。
彩香もそうだけど、楓や織子ちゃんの他言語を理解する能力の高さを見ていると、なんだか落ち込むなあ。いや、僕、決して出来ないわけじゃない、と思うんだけどね。
食卓はアルニタス語でおしゃべりがされたけど、織子ちゃんは日本語で会話に加わっていた。なんていう強いメンタル!
座席は、僕、彩香、フェルディナント様が横に並び、僕の前に楓、その横に織子ちゃん、そしてクリストフ王子と並んで座っていた。ルーは僕と楓の間のお誕生日席に座っていた。楓はルーと織子ちゃんの近くがいいし、織子ちゃんはどうもクリストフ王子と並んで座りたかったらしく、このような配置となった。
「織子ちゃん、パパのハンバーグ、おいしいでしょう?」
「うん! おいしい! あ、クリストフ王子、アボカドもちゃんと食べなきゃダメよ」
「うるせーな、オリコ。肉だよ、肉!」
……クリストフ王子も織子ちゃんの日本語が分かっているかのような答え。それに、織子ちゃんが加わると、クリストフ王子はどうも素になるらしく、僕たちに対しているときとは随分態度が違う。
「はい、レタスとアボカド!」
「あ、やめろよ、オリコ!」
「だめだめ、ちゃんと食べて! 王子様なんでしょ?」
「なんだよ、それ」
楓が笑って、フェルディナント様も笑った。フェルディナント様は「ぼくはちゃんとレタスもアボカドもはさんでいるよ?」と言って、自分のハンバーガーをクリストフ王子に見せた。
「ほら! あなたより小さいフェルディナント様も食べてるわよ」
「……分かったよ」
クリストフ王子はソースをたっぷりかけて、ハンバーガーを食べた。
「ああもう、ソースかけすぎ!」
「お前、いちいちうるさい!」
織子ちゃんとクリストフ王子は、日本語とアルニタス語で不思議な会話を繰り広げていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます