第66話 アルニタスのポータルと、王子様②

 楓を探して歩いていくと、《迷いの森》の手前の広い原っぱに、ピンクちゃんがいるのが見えた。オレンジ色のボレアスもいるし、ミドリちゃん、モモちゃん、それからシルくんもいるみたいだった。

 そしてドラゴンたちといっしょに、楓と織子おりこちゃんと、フェルディナント様、それからクリストフ王子がいるのが見えた。


 近づくにつれ、話し声が聞こえてくる。

「ねえ、楓ちゃん、じゃあクリストフ王子がアンデッド事件を引き起こしたの?」

「うん! まちがえちゃったんだって」

 二人は日本語で話していた。そこに、アルニタス語でクリストフ王子の言葉が割り込む。

「おい! 何話してんだよ。オレの悪口か⁉」

 クリストフ王子は、僕たちと話すときよりもずっとくだけた感じでしゃべっていた。

「ううん、ちがうよ」

 楓がそう言うも、クリストフ王子は続けて言った。

「いいや、今の感じは、悪口だった!」

「何よ、悪口じゃないわよ!」


 不思議だ。

 クリストフ王子はアルニタス語、織子ちゃんは日本語を話しているはずなのに、なぜか会話が成り立っている。

「いいや、今のは悪口っぽかった!」

「アンデッド事件のことを話していただけよ」

「あー! 絶対、禁断の書からうっかりアンデッド出したこと、言ってるだろ」

「自分が悪いんじゃない」

「ちょっと間違っただけだよ」

「大変だったって、ルーも言っていたわ!」

 ……おかしい。

 日本語とアルニタス語だよね? 話がかみ合い過ぎていない?

 二人とも、テレパシーでもあるんだろうか?


「あ! パパ!」

 楓が僕を見つけて駆け寄ってきた。

「楓」

 僕を見ると、フェルディナント様はぺこりとお辞儀をした。クリストフ王子と織子ちゃんは、僕に気づかずにずっと何やら言い合いをしていた。違う言語同士で。


「楓、あの二人はずっと、ああなのかい?」

「うん! なかよしなの!」

「……仲良しねえ」

「ふふふ。でね、かえでたち、ルネちゃんまっているの。ルネちゃん、フェルディナントさまにあいたいから」

 楓がそう言うと、フェルディナント様はちょっと赤くなった。

 楓とルネちゃんとフェルディナント様は同い年の四歳で、楓によると、ルネちゃんとフェルディナント様は特別同士なんだそうだ。


 クリストフ王子の父親のマーティアス王の妹が、フェルディナント様の母親のアルベール様だから、クリストフ王子とフェルディナントさまは従兄弟の関係になる。だからか、外見はとてもよく似ていた。

 クリストフ王子は、黒茶のさらさらの髪にコバルトグリーンの瞳をしていた。フェルディナント様は黒茶のウェーブがかった髪にターコイズの瞳。だけど、持っている雰囲気がだいぶ違うので、印象はかなり違った。


「あ! ルネちゃん!」

 フェルディナント様は目を輝かせて、ルネちゃんのところに向かった。

 ルネちゃんはお兄ちゃんのシリルくんと、それから宿屋のロラちゃんといっしょに来ていた。ルネちゃんもフェルディナント様を見つけると、「フェル!」と呼んで駆け寄った。領主様の息子だけど、ルネちゃんだけは特別にフェルディナント様のことを「フェル」と呼ぶ。

 フェルディナント様はおっとりとしている。そして、優しい。しかし、クリストフ王子はとても鋭く賢くて、気が強い。年齢のせいかもしれないし、持っている魔力のせいかもしれないけど。


 僕は子どもたちが遊ぶのを、近くで見ていた。

 ドラゴンたちと、子どもたち。

 なんだかとても幸福な一枚の絵のような景色だ。


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