第65話 アルニタスのポータルと、王子様①
「彩香、何してるの?」
彩香はリビングの一角で何かを熱心に書いていた。
「ポータル」
「え?」
「ポータル、作ってんの! あー、難しいっ。元の魔法陣より、ちょっと複雑なのよね」
「彩香んちでは、香織さんや卓さんも手伝ってくれたからね」
「そうそう」
「でも、こっちにもポータルないと、行き来は出来ないからねえ」
「そうそう」
「しかも、魔力電池も付けるんだっけ?」
「そう、それが一番難しいのよ。それに、今のシステムだと、あたし、定期的に向こうに行って充電してこないといけない」
「魔力を?」
「そう」
「でもまあ、こういう装置でもないと、あたしたち、こっちに戻って来れなかったと思うの」
「……そうだね」
僕は別れのときの父さんと母さんの顔を思い出していた。それから、意外にも涙を見せた斗真の顔も。
「いつかさ、友だちにも会えるといいわよね!」
「……そんな日が来るといいな」
今のところ、混乱するし危険を孕んでいるから、この話は僕たち二家族の秘密になっていた。
「ポータルももっと改良する必要があるのよね。普段は目に見えないようにしておく、とか、鍵みたいな仕組みを作るとか」
「なるほど」
「今、あたしんちのポータルは布で隠してあるだけだからさ」
「うん」
「絶対に秘密にしておかないとまずいと思うの」
「そうだね」
誰でも自由にこちらに来られるようになったら――アルニタスが大きく壊れてしまう気がした。そもそも、僕たちがこっちに来ただけでも、かなりの変化だと思う。
あれ? でも。
「ねえ、彩香。僕たち、この世界――アルニタスに呼ばれて、こっちに来たんだよね?」
「うん、そうだと思う」
「僕たちがいること自体が、この世界を改変しているんじゃないかって思うんだけど、でも、それもアルニタスが望んだこと?」
「……分からないけど。でも、あたしたちはあたしたちらしくいるしかないんじゃないかしら?」
「うん。明るく楽しくね!」
「そうそう! ……世界を渡る人はあたしたちだけじゃないみたいだから、その辺もまた王都で調べてみるよ。そうしたら、あたしたちがどうして呼ばれたのかも、分かるかもしれない」
「分かった。――ところで、楓は? ルーといっしょ?」
「たぶん、織子といっしょ。織子、ポータル作ったら帰すから! ママたち、絶対心配していると思うのよ。全く、織子ってば!」
そうだよなあ。
彩香が戻ったと思ったら、ずっと日本にいるわけではなくアルニタスに戻ってしまうし、次は織子ちゃんまでいなくなったら、きっと心配だしさみしいと思う。
「彩香、頑張って! 夕ごはんは、彩香の好きなもの作ってあげるから」
「うん! ハンバーガー食べたいな!」
「分かった。とりあえず、僕、楓たち探してくるね」
「よろしく、弘樹くん」
「彩香、でも無理はしないでね」
「うん!」
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