第71話 ペガくんの気持ち

 ここからはルーとペガくんの会話。

 僕があとからルーに聞いた話なんだ。ルーはペガサス語もドラゴン語も話せるんだって。僕がピンクちゃんに子どもたちを乗せて飛んでいる間の、二人の会話。

 


 楓がルーの肩から下りて、ロラちゃんたちと遊んでいるのをルーは目を細めて見ていた。

「ルーは、カエデのことをどう思っているんだ?」

 ペガくんがルーに話しかけた。

「かわいいと思っているよ」

「カエデは、ルーのこと、特別だって言っているよ」

「ああ。だけど、カエデはまだまだ小さいからね」

「すぐに大きくなるよ」

「……そのときに考えるよ。それまでにカエデも変わるかもしれないし」

「そうだね」

 ペガくんはすっと首を伸ばして遠くを見るような目をした。


「ペガくんは?」

「え?」

「アヤカが好きなんだろう?」

「……好きっていうか、アヤカは僕の運命だから」

「運命?」

「――そう思ってしまったんだよね。《清廉の泉》でアヤカを見た瞬間に。言葉が通じる人間に会ったのも初めてだったし。――他の誰とも違うと思ったんだ」

「……そうか」

「ああ。……だけど、アヤカには既にヒロキがいて」

 ペガくんはここでちょっと下を向いた。

 ルーはペガくんが話し出すのをじっと待った。


「でも、カエデはかわいいし、妹のオリコもかわいい」

「うん」

「それに最近は、アヤカは僕に乗って飛べるようになった」

「うん」

「それでいいと思うんだよ」

「そうだな。――オレたちは寿命も長いし。人間よりもずっとずっと長く生きる」

「そうなんだ。僕は、アヤカもアヤカの子どものカエデも、さらにその子どもも見守って行こうと思っている」

「……うん」

 楓の笑い声が響いて、ペガくんとルーは目を細めた。


「人間はすぐに大きくなるよ」

 ペガくんが言って、ルーは「うん」と頷いた。

「アヤカがこんなに早く子どもを生むとは思わなかったよ、実のところ」

「そうなんだ」

「うん。……だけど、いいものだね。命を繫ぐって」

「そうだな」

 柔らかい風が吹いて、ペガくんの鬣とルーの毛を撫でた。

「ルー!」

 ふいに楓がルーを見て、駆けて来た。

「アヤカ、そっくりだ。どんどんアヤカに似てくる」

 その姿を見て、ペガくんは嬉しそうにそう言った。


 ルーは抱きついてきたカエデを受け留め、抱き上げた。

「アヤカは向こうに行ったのかい?」

 向こう、とは日本のことだ。ペガくんのその問いかけにルーは短く「ああ」と答えた。

「でも、ママ、すぐにかえってくるよ!」

 カエデが会話に加わり、ペガくんは嬉しそうに笑った。



 僕はルーからこの話を聞いて、切ない気持ちになった。

 そして、人間と、ペガサスや人狼、ドラゴンとは、寿命が違うんだ、ということをしみじみと実感した。僕たちの気持ちは通じ合っている。だけど、違いはあるんだ、確実に。

 そのことはちゃんと覚えておこうと思った。

 いまという時間を大切にしたい。

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