第72話 ベルンハルト様とアルベール様の恋①

 彩香は数日して、帰って来た。


「彩香ちゃん、おかえり! ……パパとママ、なんて言ってた?」

 織子おりこちゃんはさすがにちょっと気になるのか、まずそう聞いた。

 彩香はにっこり笑うと、「夏休み、こっちで過ごしていいって」と言った。

「やったあ!」

「でもね、宿題はしなさいって」

 彩香は織子ちゃんに水色のトートバッグを渡した。どうやら宿題一式が入っているらしい。

「げー! こんなん、やっても意味ないよー」

「経験上、とりあえず出すのが大事なのよ」

 彩香は涼しい顔をして言った。


「オレも宿題あるから、いっしょにやろうぜ」

 クリストフ王子が織子ちゃんに声をかけ、ふたりは子どもだちの勉強部屋(作ったんだ!)に行った。

「あらあらあら」

 彩香は二人を見送りながら、「あたしがいない間に随分仲良くなったじゃない?」と言った。

「そうなんだよ。織子ちゃん、クリストフ王子に『クリスって呼んでいい』って言われていたんだよ」

「まあまあまあ」

 彩香は嬉しそうにくすくすと笑った。


「……でも、実際問題、王子様との恋は、最終的にはうまくいかないんじゃない?」

 僕はちょっと心配になってそう言った。

「うーん、そうねえ。難しそうねえ。ベルンハルト様とアルベール様のときも大変だったそうだし。アルベール様は王族なのよね」

「マーティアス王の妹なんだよね」

「そうそう」

「僕さ、ベルンハルト様とアルベール様の今しか知らないんだよ。みんなお二人の恋に感動しているみたいなんだけど、有名な話?」

「そうね、女子の間では有名ね」


 彩香が話してくれたベルンハルト様とアルベール様の恋はこんな話だった。

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