第62話 僕たちのうちに「ただいま!」②

「さあ、そろそろ行くわよ、楓!」

「はあい」

 彩香に言われて、楓は彩香にだっこされた。

 禁断の書を持って、彩香のうちのリビングの隅に作ったポータルに行く。

「じゃ、みんな、またね!」

 彩香がそう言って手を振り、僕も「またね!」と手を振った。

 僕の父さんと母さんはうっすらと泣きながら、斗真は少し怒った顔で手を振った。七海は「またね!」って元気に手を振った。


 彩香の両親は笑顔で手を振って――あれ? 織子おりこちゃんは?


 ふと横を見ると、彩香と彩香にだっこされた楓がいて、その彩香の向こうに織子ちゃんがいた。

「織子ちゃん!」

 僕は驚いて大声を出してしまった。

 彩香も驚いたらしく、「えええっ!」と言った。

「織子……ついて来ちゃったの?」

「えへへ」

「どうして」

「だって、織子、いま夏休みだもん! それに織子、ルーにもピンクちゃんにも、ピンクちゃんの赤ちゃんにも、それからペガくんにも会いたいもん!」

「織子……」

 彩香がこめかみに手をやると、楓が彩香の腕からぴょんと下りて、

「あたし、おりこちゃんいっしょでうれしい!」

 と言って、織子ちゃんの手をぎゅっと握った。


「ははは。――さすが、彩香の妹!」

「あー、弘樹くん、何よ、その言い方!」

「だって、そっくりだよ」

 僕は笑いが止められなくて、くすくす笑い続けた。

「弘樹くんたら!」

「あ、うちがみえた!」

 楓の言葉に僕ははっとした。

「え? 《はじまりの草原》じゃなくて?」

「改良したのよ。正確には、《はじまりの草原》にいったん着いて、そこからまた飛ぶ仕様なんだけどね。《はじまりの草原》からうちに行くのも大変でしょう?」

「それは大変だけど……そんなこと、出来るんだ」

「うん、出来ちゃったの。さすが、パパとママ!」

 いやあ、彩香もそうとうだけど?


「おうちだ! ルー、ただいま‼」

 楓はダッシュでルーの胸に飛び込んで、もふもふに顔をうずめた。

「ただいま。直接、帰って来ちゃった」

 彩香がにっこりと言う。

「……おかえり。待っていたよ」

 ルーは楓の頭を撫でながら、目を細めて言った。

「うん、ただいま、ルー」

 僕はルーと握手した。

「……その、アヤカにそっくりな子は?」

 ルーの視線の先には織子ちゃんがいた。

「彩香の妹の、織子ちゃんだよ」


 織子ちゃんはルーのことを、きらきらした目で見ていた。

 すると楓は織子ちゃんのところに行き、日本語で(そう、こっちに着いた段階で、僕たちはアルニタス語をしゃべっていたのだ)、「あのね、ルーだよ!」と言って、それから、ルーのところに戻り、アルニタス語で「かえで、おりこちゃんとなかよくなったの!」と言った。


「オリコ、よろしく」

 ルーがそう言って手を出すと、織子ちゃんはルーの手をそっと握って「織子です」と言った。それから、「もふもふ、触っていい?」と言って、ルーを見上げた。

「あのね、おりこちゃん、もふもふしたいって」

 楓が通訳するとルーは「どうぞ」と言った。

「いいよって」

 織子ちゃんはルーにもふもふして、「きゃあ! もふもふ!」ときゃっきゃっと喜んだ。そうして、楓もいっしょにもふもふして、いっしょにルーにくっついていた。


「ねえ、弘樹くん。織子、どうしよう?」

「どうって、着いて来ちゃったものは仕方がないよね」

「そうなんだけど。あああ! スマホ! スマホがないの、不便っ」

「ポータルで移動出来るようになっただけでもいいんじゃない?」

「電話かメールが出来ないと!」

 彩香はそう言って、何やらぶつぶつ呟いていた。

 ……電話かメールの開発でもする気なのだろうか?

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