第61話 僕たちのうちに「ただいま!」①

 結局、僕たちは、高校は中退し、世間的には海外留学しているという設定にすることになった。何年か経てば、年齢の差も分かりづらくなるだろうし、そうなったらもっと自由にこちらで活動出来るかもしれない、という意図もあった。



「本当にもう向こうに行っちゃうの?」

 母さんが悲し気に言った。

「うん」と僕は応える。

 数日かかって、彩香と香織さんと卓さんがポータルを完成させ、僕たちはアルニタスに帰ることになった。

 何しろ、楓がついに「かえで、ルーにあいたくなっちゃった!」と言い出したのだ。

「またすぐに会えるよ」

「うん。――体には気を付けて」

「分かってる」

 僕は父さん母さんとハグをして、それから七海と斗真ともハグをした。

 七海は「わたしも向こうに行きたいなあ。楓ちゃん、かわいいし!」なんて言って笑っていたけど、斗真はちょっと目に涙をためて黙ったままだった。

「斗真、また来るから」

「……うん」

 斗真が僕の手をぎゅっと握ったので、僕も握り返した。


 彩香は両親と別れを惜しむ――というよりも、何やら「魔法発動のシステムってさ」とか「禁断の書、コピーしたらまずいかな」とか「だからこのコードが」とか、なんか新倉家とは違う感じの会話をしていた。

 楓は、と言うと織子おりこちゃんとすっかり仲良くなって、色々な話をしているようだった。


「ねえねえ、楓ちゃん、ルーってだあれ?」

「あのね、ルーはね、かえでのとくべつなんだよ!」

「特別?」

「うん! ルーはね、じんろうなの!」

「へえ、じんろう! かっこいい!」

「でしょう! もふもふなんだよ」

「もふもふ、いいなあ」

「でしょ! うふふ」

「あとねえ、ピンクちゃんもいるんだよ」

「ピンクちゃん?」

「うんとね、ピンクドラゴンのピンクちゃん。ママとともだちなの。かえでともともだちなんだよ」

「へえ、いいなあ!」

「でしょっ。あ、でね、ピンクちゃん、あかちゃんうんだんだよ」

「すごい!」

「でしょう! かわいいのよ!」

「いいなあ、いいなあ!」

「いいでしょう! あのね、ペガくんもいるんだよ」

「ペガくん?」

「ペガサスのペガくん! きれいでかっこいいんだよ!」

「へえ、いいなあ。ああ、うらやましい‼」

「えへへ」


 二人はよく似た姉妹のようだ。

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