第60話 ポータル、作っちゃお!②

 その後、話し合いをした。

 僕の家、新倉家と、彩香の家、木崎家総出で。

 ただし、途中から楓は織子おりこちゃんと七海に遊んでもらってその場にいなかったし、斗真は少し離れたところから心配そうに見ていただけだったけれど。


「僕たち、異世界――アルニタスに帰ろうと思うんだ」

 僕がそう言うと、母さんは「帰る?」と変な顔をして、「弘樹の家はこっちにあるじゃない」と言った。

「でも、僕たち、今はアルニタスに生活の基盤があるんだよ。楓のこともあるし」

「そんなの、どうにでもなるわよ! 高校は休学届けを出してあるから、戻れるわよ」


 高校!

 何もかもが遠いなあ。

 高校にまた通うだなんて、思ってもみなかった。……てゆうか、無理だと思う、それ。見た目も結構違っているし。


「わたしたちが、どんなに心配していたか」

 母さんはそう言って泣いて、香織さんに肩を抱かれた。

「オレ、兄ちゃんと会えなくなるの、嫌だ」

 ずっと黙っていた、斗真が怒ったようにぽつりと言った。

 母さんも「そうよ。また、会えなくなるなんて」と言って泣いた。


 すると、香織さんが明るくこう言った。

「会えるわよ!」

「え?」と斗真と母さん、それから父さんが言うと、今度は彩香が言った。

「ポータル、作っちゃおうと思って!」

「ポータルって、アニメとか漫画とかによく出てくる、空間を移動出来る、あれ?」と斗真。

「ポータル作って、いつでも行き来自由に出来たらいいのよ!」

と香織さんが言って、彩香が

「そうそう、ポータル、作っちゃお!」

 と言って、笑った。


 あ、なんか、懐かしい、このノリ。

 ドラゴン欲しいな、とか、ペガサス欲しいな、とか。あれだよ、あのノリ!

 ポータル、本当に作っちゃうんだ。

 そう言えばさっき、うちの家族が来る前、なんか話していたなあ。


「魔法陣はこれね!」

「私にも見せてくれ」

「ここがね、時間と空間を指定するコードなの」

「……もっと詳細設定出来るんじゃない?」

「そうだな。この数式をこうすれば」

「なるほど! パパ、すごい!」

「魔力で発動するのよね?」

「魔力を、蓄電池みたいにためておけるシステムにしたらいいんじゃないか?」

「乾電池みたいな?」

「魔力電池じゃない?」

「それには、ここのコードをこうして……」

「あ、もっと使いやすくするには……」


 三人は禁断の書を広げながら、ホワイトボートにいろいろなことを書き込んでいて、僕は、彩香の天才ぶりは父親からの遺伝でもあると確信したのだった。

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