第59話 ポータル、作っちゃお!①

 僕の家族とは、彩香のうちで会うことにした。

 外を歩いていて、うっかり知り合いに会っても面倒だし、何より、この異常事態を僕の家族がすんなり理解するかどうか、少し不安だったから、香織さんにいてもらった方がいいかと思って。


 でもまずは、彩香のお父さんのすぐるさんに会った。

 卓さんも、香織さんのように彩香と僕の説明をすんなり理解して、しかもさらに根ほり葉ほりいろいろな質問をしてきた。卓さんも香織さんも研究者だからか、視点がちょっとおもしろい。二人とも、禁断の書に夢中になっていた。


 でも、一番夢中になったのは、かえでに、だ。

「楓! 私の孫! おじいちゃんですよ!」

「ちょっと! あなたがおじいちゃんだと、わたしまでおばあちゃんになるじゃない!」

「いやいや、かわいいなあ!」

「楓ちゃん、この人は卓ちゃん、わたしは香織ちゃんね!」

「あい! すぐるちゃんにかおりちゃん!」

 楓がにっこり笑うと、卓さんは「かわいいー!」と言って、にこにこしながら楓を抱き締めた。……この人はこうやって、彩香を(そして織子おりこちゃんも)育てたのだろうなあ。



 そして、香織さんが僕んちに電話をしてくれて、僕の家族が彩香のうちに来た。

 チャイムが鳴る。

 僕はすごく緊張していた。

 リビングに、僕の家族が現れた。

「ひろきっ!」

 真っ先に母さんが僕を抱き締めた。それから、父さんと、弟の斗真とうまと妹の七海ななみもいっしょになって抱き合った。

「お兄ちゃん!」と言って七海が泣いた。斗真は何も言わずに泣いていた。

 父さんと母さんも泣いていて、僕も気づけば涙が出ていた。


 ――会いたかった。


「パパ、ないてる」

「楓」

「パパって? ……楓?」

 父さん母さん、それから斗真と七海が楓を見る。

 楓は織子ちゃんと手をつないでいて、自分に視線が集まるとにっこりと笑い、「かえでです、よんさいです!」と元気よく言った。


「えーと、弘樹の子……なのか?」

「彩香さん、そっくり!」

「そういえば、お兄ちゃん、なんかおっきくなってる!」

「オヤジになってんだよ」

 オヤジとはなんだ、オヤジとは!

「で、どこにいたのよ?」

 母さんにじっと見つめられ、「えーと、ちょっと異世界に?」と、僕はえへへと笑いながら応えたんだ。



「――なるほどね。ありえないような話だけど、あなたたちの成長した姿と、楓ちゃんを見たら、納得するしかないわね」

 僕と彩香の話を聞いて、まず母さんがそう言った。

「成長していて子どもまでいたのは驚いたけど、五年以上も会えないでいるより、ずっといいよ。……半年でも本当に心配したんだ」

「父さん」

「楓ちゃん、かわいい!」と七海が言い、「あい!」と楓が返事をした。七海はお姉さんらしく楓の頭をなでた。七海は十歳で斗真は十三歳だ。僕たちは三歳ずつ離れたきょうだいなんだ。


 父さんも母さんも、それから斗真も七海も、意外にすんなりと僕たちの状況を受け入れた。

「もっと信じてもらえないとか、怒られるとか、思ったよ」

「どうして?」

 母さんが不思議そうに言う。

「だって、いきなりいなくなって。戻って来たと思ったら、なんか訳の分からない状態だし」

「何を言っているのよ、弘樹。あなたがわざと心配させることをするはずないじゃない。それにいいのよ、なんでも。だって、生きているんだから」

「母さん」

「そうだよ、弘樹。生きて会えて、しかも孫までいて……!」

 父さんはそう言うと、楓をだっこした。楓はえへへ、と笑った。


「でも、これからどうするの?」

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