第101話 不穏な気配がするんだ④
ルーヴ・ルプスも、そして人狼の里の重鎮たちも安堵した表情になった。そして、ルーヴ・ルプスが言った。
「ちょうどこのような状況のときに、ルーヴ・ルプス・ジュニアがカエデとともに帰って来てくれたことが、何かの啓示のように思える。ともかく、私たちは、この平和な暮らしが乱されることを恐れているんだよ。だから、どうか、カエデの両親である、ヒロキとアヤカに協力してもらうように伝えてもらえないだろうか」
「もちろんです」
「魔力を持ったニンゲンが、アルニタス大陸の外にもいるのなら、いずれ、本当に結界を破るニンゲンが現れてもおかしくはない」
「分かりました。――父上、お願いがあります」
「なんだ?」
「オレは、ルーヴ・ルプスの名を、弟のルスラに譲りたい。そうして、《最果ての村》でヒロキとアヤカの力になりたいのです」
「……分かった。しかし、答えは保留にさせておいてくれ。お前だけの気持ちでは決められないから」
「はい」
ルーヴ・ルプスは目を細めて、ルーを見た。
「帰って来てくれて、本当に嬉しいよ。そして、アルニタスのことを、ともに考えていって欲しい。ニンゲンとも協力して。――お前は、架け橋となるのだ」
ミドリちゃんが小さく咆哮して、それから人狼の重鎮たちが手を叩いた。
群青色の夜に銀色の月が大きく光、炎は橙色のあたたかい灯りを揺らしていた。
不穏な気配がする――だけど、きっとうまくいきそうなだという気持ちが、その場の面々に満ちていた。
「あ」
「何、カエデ」
「なんかね、『よろしくね』って聞こえた気がする」
楓は空を仰ぎ見た。
誰?
誰か分からないけど、きっとだいじょうぶ。
「カエデ?」
「うん、あたしね、みんな笑っていて、おいしいごはんを食べれる世界がいいなっ」
そうだよね?
と、楓は声の主に言った。心の中で。
笑顔とごはんと、それから、トクベツと!
楓はルーにぎゅうっとしがみついた。
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