4.だって白いごはん、食べたいんだもん!

第74話 コシヒカリの苗、持って来ちゃったの!

 学校が休みの日、彩香は家のみんなを集めて言った。

「今から水田を作ります! みんなで力を合わせましょう!」

「はーい!」

 楓は元気よく手を挙げて返事をし、織子おりこちゃんもフェルディナント様も、クリストフ王子まで頷いた。もちろん、ルーもピンクちゃんもペガくんも。


「え?」

 僕だけ、思わずそう言ってしまう。

「水田って、お米?」

「そう!」

「白いごはんの、あれ?」

「そう! あのね、コシヒカリの苗、持って来ちゃったの!」

 彩香はそう言って、満面の笑みを浮かべた。


「えええええ!」

 ああ、どうりで何やら荷物が多いと思ったんだよ!

「だって、もう、どうしてもどうしても、白いごはん、食べたいんだもん! それに楓たちにも食べさせたいし! まあ、楓は日本で食べたんだけどさ」

「おいしかった! かえで、こっちでもたべたい!」

「だよねー」

「だよねー、じゃなくてさ。生態系とか……大丈夫、じゃ、ないんじゃない?」

「持ち込みだしねえ」

「そうそう」

「でもさ、それ言ったら、あたしたちがこっちに存在している段階で、もう変質はしているはずなのよ」

「まあ、それはそうだけど」

「あたしたちはさ、世界に呼ばれたのよ。少しくらい、いいってことで! じゃ、水田作りまーす!」


 少しくらい?

 思えば、いろいろしている。水車作ったりうどん作ったり。或いはベーコン作ったりアイス作ったり。でもそれは、明るく楽しく生きるためのものだ。

 ……全然「少しくらい」じゃないけど、まあ、いいか。

 そもそも、僕たちがアルニタスに根付いて、楓が生まれていることが一番大きな影響を持っているような気がするし。でも、楓の存在を否定することは絶対に出来ないし。


「パパ! おこめつくろ?」

 楓が笑いながら言う。

 この愛しさ。

 僕は思わず楓をぎゅっと抱き締めた。

「パパ?」

「うん」

「おこめ、つくろうよ」

「うん、つくろうね」



 僕たちは頑張って、水田を作った。

 そして苗を植えた!

 汚れたら彩香がすぐに〔クリーン〕と魔法できれいにしてくれたのは嬉しかった。あのペガくんまで泥だらけになりながら、手伝ったのだ。もちろんすぐに〔クリーン〕ってしてもらっていたけれど。


「でも、帰ったらすぐにお風呂に入りたいわよね!」

「うん」

「みんなに、〔クリーン〕も〔ヒール〕もかけているけれど、なんかお湯につかるのって、違うもん」

「うんうん!」


 僕んちは、上下水道完備だ。

 何しろ、「トイレ汚いの、無理―!」とか「お風呂入れないと、死んじゃうー!」とか彩香が言い、魔法の力でもって水洗トイレが真っ先に作られ、その後お風呂が作られた。水道も完備した。


「いつか、《最果ての村》のインフラを整えたいなあ」

 なんて言っていたけど、いつの日がほんとうに整える日が来るのだろう。

 クリストフ王子とフェルディナント様は、最初、僕んちのトイレやお風呂にすごく驚いていた。

「これは……なんて快適なんだろう? 王城にもこんなものはない」

 クリストフ王子はしみじみと言い、彩香にどんなシステムになっているのか、根ほり葉ほり聞いていた。クリストフ王子にも魔力があるから、王城に戻ったら、同じ設備を作るのかもしれない。


 青い空の下に水田が出来上がり、緑色の苗が風に揺らめいていた。

「きれいだね」

「うん、きれい」

 僕と彩香がしみじみ水田を見ていると、織子ちゃんが「お風呂入りたいー!」と言うので、家に帰ることにした。


 アルニタスはきれいなところだ。

 自然が豊かで、空気も水もきれいで。 

 ドラゴンもいてペガサスもいて、それから人狼もいて。

 たぶん、まだ僕たちが知らない、不思議な生き物がいるのだろう。

 アルニタスで生まれた楓は、人間もドラゴンもペガサスも、そして人狼も、同じ目線で捉えている。


 僕たちがどうして世界に呼ばれたのかは分からないけれど、僕はこの美しい世界を守りたいなって、しみじみ思ったんだ。

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