第75話 おにぎり祭り
「はあ、さっぱりしたあ」
彩香がお風呂から出て、果汁のジュースを出して〔フリーズ〕と水を凍りにしたものを入れて冷たくして、ごくごくと飲んだ。
「かえでもこおりー!」
「はいはい」
楓だけじゃなく、みんな氷入りのジュースをおいしそうに飲んだ。
「ねえ、弘樹くん、お米、楽しみだね!」
「うん、そうだね」
「……あのね、あたし、ちょっと待ちきれないのよね」
「は?」
「何カ月も待てなくて」
「でも、育つのに時間かかるよね?」
「うん、だけど、あまりに楽しみで、ちょっと魔法使っちゃおうかと」
「え?」
「脱穀機とか精米機とか、まあいろいろいるんだけど、そこも魔法でなんとかしちゃおうかと。道具を作るのは、一回食べてからがいいなあ」
「そんなの、あり?」
「だってずっと我慢していたんだもん、白いごはん! 日本人のソウルフードよ! そんなわけで、みなさん! 明日は収穫です‼」
は? 今日植えて、明日が収穫? 冗談だろ?
という僕の思いはよそに、みんな元気よく「はーい!」と返事をして、そして明日に備えて早く眠ったのだった。
一夜明けて。
一面の金色の稲穂!
僕は見惚れてしまった。
なんて懐かしい風景。
金色の稲穂が重そうに首をもたげている。
風が渡る音が聞こえてきた。
彩香は満足そうに一面の金色の稲穂を見て、言った。
「さあ、収穫します! 魔法で根元を切るから、みんな集めてね!」
小さい子に刃物は危ないからね。
みんなでわいわいと、稲穂を集める。そして、「初回だし、うちの分だけだから、ちょっと魔法で」と言って、稲穂から玄米を取り出しさらに精米して、白いお米にした。
「玄米でもいいんだけどねえ。今回は、どうしても白いごはんがいいから!」
白いお米はきらきらしていた。
袋に入れて、家に持ち帰る。
「じゃあ、あとはよろしくね、弘樹くん! おにぎりパーティしよう!」
彩香がにっこりと言うので、僕は鍋でごはんを炊いた。何回か炊いて、そしてみんなでおにぎりを握った。
基本的に塩にぎり。
でも、焼き魚を入れたりベーコンを入れたりしたのも作った。肉も入れたし、「卵もいいんじゃない?」と言うので、卵焼きを入れたりもした。ハンバーガーのときと同じように、みな思い思いの具を入れて、おにぎりを握った。
「いただきまーす!」
みんなでおにぎりを食べる。
「おいしい!」
みんな、おにぎりを喜んで食べた。形がちょっといびつなものもあったけれど、そんなのご愛嬌! 自分たちで作ったおにぎりはほんとうにおいしかった。
「かえで、しおにぎり、すき」
「あたしはベーコンかなっ。クリスは?」
「オレは肉かな?」
「ぼくはたまごのがすき!」
「ううん、やっぱり海苔が欲しいわね、海苔が」
彩香がしみじみと言った。
「うん、おにぎりと言えば海苔だもんねえ」
「うーん、海苔海苔。あ、それにさ、お味噌汁、飲みたくない?」
「飲みたい」
「それから、やっぱり醤油が欲しい!」
「……分かる」
醤油がないって、結構厳しい。
僕たちがあれこれ話していたら、ルーが「ヒロキたちは食べることに、ほんとうに一生懸命だな」と言って、笑った。
「だって、食べることってだいじだもん!」
彩香が笑いながら言う。
そう、食べることは生きることだと、僕も思う。
「ねえねえ、かえで、ピンクちゃんたちやペガくんに、おにぎりあげたい」
楓が言って、彩香が「本人に、食べられるかどうか聞いてみてね。特にミドリちゃんたちは小さいから、ピンクちゃんの言うことをちゃんと聞くのよ」
「はい! おりこちゃん、いこう!」
「うん!」
「あ、オレも行く。ボレアスにもあげてみたい」
「ぼくもいく!」
子どもたちはみんなそろって、おにぎりをお皿に乗せて、ピンクちゃんたちのところへ行った。
ピンクちゃんもミドリちゃんたちも、ボレアスも、それからペガくんもおにぎりを食べてくれたし、気に入ってくれた。みんな大喜びした。
「ぼく、ルネちゃんにもたべてほしかったなあ」
フェルディナント様がつぶやいて、「また水田を作りましょう。今度は村の人にも手伝ってもらって、ゆっくり作ろうね」と彩香が言った。
僕は、この《最果ての村》に金色の稲穂が広がる風景を思い浮かべて、なんだか胸がぎゅっとしたんだ。
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