第11話 ピンクちゃんとの飛行訓練①

 飛行訓練のための広場で、僕たちはピンクちゃんといっしょに訓練が始まるのを待っていた。彩香はすっかりピンクちゃんと仲良くなって、何事かを話して笑い合っている。ドラゴンも笑うんだ……。

 てゆうか、彩香、もう絶対にもとからここにいたよね? その方がなんだか自然なんだけど。

 僕は複雑な気持ちで、彩香とピンクちゃんを眺めた。


 そうこうするうちに、飛行訓練が始まった。彩香は張り切って、「じゃあ、あたしが先ね!」と、ピンクちゃんといっしょに訓練に向かった。どう見ても大丈夫そうだと思ったんだよね。だって、ドラゴンと話せる人間なんて、ここにもいないよ? 訓練する人も、不思議そうな顔して彩香を見ていたんだよ。


 ところが。

 彩香を僕は高く評価しすぎていたようだ。

 いや。

 彩香は賢い。何しろ現地語を流暢に話すしドラゴンとも話すし。野草にも詳しいし。

 でも、賢いのと、運動神経は別物だったらしい。


 彩香はまず、ドラゴンの背中に乗ることが出来なかった。

「彩香、そこに足をかけて……あ、そうじゃなくて!」

「あーん、難しー!」

 たぶん、そこは全く難しくないポイントだと思う。彩香は何度も転げ落ちた。

 僕が彩香を支えて乗せてあげようとすると、「やーん、弘樹くんのえっち!」とか言うから、もうたすけてあげることも出来ない。……えっちって。何言ってんの。僕はいろいろ思い出して、顔が真っ赤になってしまった。


 ピンクちゃんは我慢強く、彩香を待った。……ピンクちゃんじゃなかったら、ドラゴンは早々に返却だったと思う。

 結局、彩香はピンクちゃんに咥えられ、ほいと背中に乗せられ、ようやく背中に座ることが出来た。

 ……初めから、そうしていればよかったのに。

「ピンクちゃん、ありがと!」

 彩香はピンクちゃんをぎゅっと抱きしめた。ピンクちゃんも何事か言って、彩香に応えた。


「ピンクちゃん、あたし、手綱持ったよ!」

 ピンクちゃんは一声鳴くと、ゆっくりと宙に浮いて、飛び立った。 

 おお! やっと!

 と思ったら、彩香の声が上から降って来た。


「無理無理~! 気持ち悪いー! 酔ったー‼ もう下りるー!」


 日本語だったので、周りの人たちは何事かと不思議そうな顔をしていた。何しろ、ドラゴンと会話する人間だから、ドラゴンに乗れないなんて、思っていなかったと思うんだよね。


「弘樹くーん! 気持ちわるーいっ‼ たすけてー!」

「とりあえず、下りておいでよー!」

「どうやってー!」

「ピンクちゃんに頼めばすぐ下りられるんじゃない?」

「分かったぁー!」

 で、彩香は下りて来た。


 地上に降り立った、ピンクちゃんの上でぐったりしている彩香。

 そして彩香は、当然自分ではピンクちゃんから下りることが出来ず、ピンクちゃんに咥えられ、そっと地面に下ろしてもらった。

 地面にそのまま横たわる、彩香。

「うう。なんで、あんなふわふわしたものに、みんな、乗れるのよお。やばいよー やばいやばい! 気持ち悪い~~~~~」

 ピンクちゃんは心配そうに彩香をそっと舐めた。

 いっしょに空を飛べなくても、ピンクちゃんは彩香にすごくなついている。


 ……そう言えば、デートの場所を決めるとき、乗り物酔いするから遊園地は絶対にイヤだって言われてたっけ。遠い昔のことのようだ。

「彩香さあ、乗り物酔いするって、自分で言っていなかった?」

「……言ってた」

「だから、遊園地は絶対にイヤだ、とも言っていたよね?」

「……言ってた」

「じゃあ、ドラゴン乗るの、無理じゃない?」

「……なんか、ドラゴンなら大丈夫な気がしたんだもんっ!」

 彩香は賢いのか賢くないのか、さっぱり分からない。

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