第10話 ドラゴンを買う②

 ドラゴンって一口に言っても、いろいろなドラゴンがいる。

 多くは、単に「ドラゴン」と呼ばれている、「大陸ドラゴン」で、矢じりのような形の尾と蝙蝠のような大きな翼をもつドラゴンだ。鉤爪と硬い鱗と角、そして鋭い牙を持っている。目がすごくいいらしく、遙か遠くのものを見ることが出来るらしい。体長は十五メートルくらいで、色は様々だ。

 って、全部彩香情報だけどね。


「あたし、ピンクドラゴンがいいなあ」

「大陸ドラゴンの?」

「うん。ナッカーはちょっと蛇みたいだし、ワイバーンは脚が二本だから。大陸ドラゴンがやっぱり一番安定していて、いいなって思うの。あたしでも乗れそうじゃない? 色は絶対にピンクね!」

 彩香はドラゴンの競り市でそう言ってはしゃいだ。

 僕たちは再び《城塞都市ルミアナ》に来ていた。ドラゴンを買うために。


 人を乗せるドラゴンは、野生のドラゴンではない。野生のドラゴンは気性が荒く、とても人を乗せて飛んだりは出来ない。野生のドラゴンを手なづけて、卵を産ませ、その卵を孵化させて産まれた赤ちゃんのドラゴンを飼育して、人が乗れるように訓練したドラゴンが、人を乗せて飛べるドラゴンとなる。そう、大変な手間暇がかかっているのだ。しかも数はとても少ない。だから、高い。超高級車並みに。家より全然高い。


 ドラゴンの競り市には何頭かのドラゴンがいた。ほとんどが大陸ドラゴンだったけれど、ナッカーやワイバーンもいた。色は緑系が最も多かった。赤や黄色のもいた。そして、彩香が欲しいと熱望するピンクのドラゴンもいた。

「ほんとに買うの?」

「うん!」

 彩香のきらきらした顔を見たら、もう絶対に反対出来なかった。

 僕たちはこうしてドラゴンを手に入れた。ピンクのやつね。



「きゃー、ピンクちゃん!」

「……それ、名前?」

「うん!」

 なんて、安直な!

 彩香はピンクちゃん……の、頭を撫でた。

「ふふ、かわいい!」

 かわいい……のか?

 ピンクであっても、ドラゴンはドラゴン。

 鱗は硬く、鉤爪も持っている。尻尾でぶたれたら、簡単に死んでしまいそうだ。それに、牙もすごいなあ。うわあ。

 あ、そう言えば。


「ねえ、彩香」

「うん、なあに?」

 彩香はピンクちゃんの頭を撫でたり、躰に触れたりしていた。

「いま、ピンク“ちゃん”って言ったけど、この子、雌なの? 競り市の人はドラゴンの性別判断は難しくて、もう少し成長しないと分からないって言っていたけど」

「絶対に女の子だよお。だって、ピンクちゃんがそう言ってるもん。本で読んだ特徴からもそうかなって思ったし!」

「え?」

 ピンクちゃんがそう言っている……て?

「彩香、ドラゴンと会話出来るの?」

「うん、ほら、この間、あたし、本買ったでしょう? あれ、ドラゴンの本もあったんだよ。全部読んじゃった!」

「で、そこにドラゴンの言語に関することも書かれていて、翻訳機能を使ったんだね?」

「うん、そう! ピンクちゃんとお話出来るの、嬉しいね!」

 彩香は、ピンクちゃんに頬ずりしながら、謎の言語を話し、ピンクちゃんと会話をしながら言った。

 ……翻訳機能あっても、僕には無理だけど。


 ピンクちゃんは、きれいな全身ピンク色のドラゴンで、瞳は金色だった。他の大陸ドラゴンと比べると少し小ぶりだったけれど、佇まいが美しく、広げた翼は光を透かし、なんとも優美なドラゴンだった。そして、優しそうな顔をしていた。

 僕たちは《城塞都市ルミアナ》でドラゴン所有者登録をして、飛行訓練を受けたら《最果ての村》へドラゴンに乗って帰る予定でいた。


 ところが、思いもかけないことが起こった。

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