第99話 不穏な気配がするんだ②

 アルニタス大陸は、この世界の中心なんだよ。

 更にその中心が《はじまりの草原》なんだ。

《はじまりの草原》は、今では「繋ぎ目」の意味も持つ。他の世界との分岐点なんだよ。

 だから、ときどき、人が現れる。カエデ、君のご両親のようにね。

 ……それから、カナデのように。


 アルニタス大陸は涙型の大陸だ。迷いの森を境界にして、ニンゲンの居住区と、私たち《神に近い生き物》とニンゲンが呼ぶ生き物の居住区とに分かれている。ニンゲンが《最果ての村》と呼んでいる村は、アルニタス大陸を上から見ると、実は真ん中あたりに位置しているんだよ。《最果ての村》という名前は、ニンゲンが住む「最果て」という意味だろうね。《迷いの森》はふつうのニンゲンには超えられない結界だから。


 結界は、このアルニタス大陸そのものにも張られている。

 海流が自然の結界の役割を果たしていて、ニンゲンの大陸からは自由に渡ることが出来ないんだ。

 アルニタス大陸から、ニンゲンの大陸に行くことはある。

 その場合、ドラゴンで飛んで行き来することしか出来ない。ペガサスでも行けるだろうけれど、ペガサスは通常ニンゲンを乗せないからね。


 カエデ、知っているかい?

 ドラゴンもペガサスも、アルニタス大陸から別の大陸に行くことは出来るけれど、彼らはアルニタス大陸以外で長くは生きていくことが出来ないんだ。長く離れていると弱ってしまうんだよ。もちろん、子どもも生まれない。

 恐らく、我々も同じだろう。この大陸でしか、ありのままで生きられない。

《神に近い生き物》はアルニタスでしか生きることが出来ないのだ。


 カエデのところのドラゴンよ。ドラゴンのお主は知っているだろう? このことを。


 ともかく、東の大陸、西の大陸、南の大陸、北の大陸という四つのニンゲンの大陸に囲まれたアルタニス大陸は、東西南北の大陸とは違う、独自の発展を遂げてきた。ニンゲンと《神に近い生き物》とが共存しながら。

 だけど、最近、綻びが生まれているらしい。

《麗しの湖》の人魚たちが教えてくれた。アルニタス大陸に一番近い東の大陸からニンゲンが渡って来ようとしていると。本来なら渡れないはずの海を超えて。


 ……アルニタスには、魔力を持ったニンゲンがいるだろう?

 あの魔力はな、《神に近い生き物》の血を引く印なのだよ。

 だから本来はアルニタスにしか、魔力のあるニンゲンはいない。

 ……だけどなあ。

 ドラゴンと違ってニンゲンは、他の大陸でも生きていけるからなあ。

 東西南北の大陸にも、魔力のあるニンゲンが生まれるようになったんだよ。


 人魚の話によるとな、ニンゲンの科学技術とアルニタスの魔力を融合させた技術で船を造り、境界の海を渡って来ようとしているらしいのだよ。

 ……もっとも、渡って来られたとしても、実際にアルニタスに上陸出来た人数は少ないだろうし、また、《迷いの森》を超えられはしないのだが。


 だけど、いずれ《迷いの森》を超えるものも出て来るのではないだろうか? 自由に海の結界を超えて来るのではないだろうか?


 ドラゴンよ。

 ドラゴン族ではどのような話になっている?

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