第18話 薬草隊

「彩香、何しているの?」

 彩香は畑で何かをしていた。何人かの女の子たち(彩香と同い年くらいに見えた)と。

「薬草を植えてるんだよ。栽培したらどうかなって思って」

「へえ」

「彼女たちが、薬草隊だよっ」

「薬草隊?」

「うん、紹介するね」


 ミルクホワイトの髪に鈍色にびいろの瞳のヒルダ、小麦色の髪に鳶色とびいろの瞳のミナ、鳶色の髪にオリーブグリーンの瞳のオレリア、ブラウンの髪に鳶色の瞳のデボラ、ブラウンの髪にオリーブグリーンの瞳のレジーヌ。


 ……絶対に覚えられない。

 なんでも年が近いから仲良くなったそうだ。いっしょに何かやりたいねってなって、薬草栽培をすることにしたらしい。

 彩香とヒルダたち薬草隊が作業をするところをしばらく眺めていたら、ずーっとおしゃべりしていた。


「でね、ヒルダはジルとどうなったの?」

「えー、今日夕方会う約束したよ」

「きゃー!」

「そういうオレリアはこないだアルベンといい感じだったじゃない」

「ふふふ」

 どこの世界も恋話こいばなが好きなんだ。

「それでアヤカは?」

「えーと」と言って、彩香はこっちを見た。


 突然話がこっちに来て、僕はうろたえた。

「ヒロキさんは、アヤカのどこが好きなんですか?」とデボラ。

 女の子たちの視線が一斉に僕に集まる。彩香は期待に満ちた目をしている。

 う。

 僕はこういうの、苦手なんだけど?

「えーと」

 あ、彩香、こっち見ないで。恥ずかしいから。

「えーと、かわいくて賢いところ! ドラゴン乗れないけどっ。僕、ちょっと用があるから!」


 僕は逃げることにした。

 女子の集団、怖い。

 なぜだか「きゃーっ」って声が聞こえてくる。


「ねね、領主様の噂聞いた?」

 話題が変わったみたいだ。

「ベルンハルト様?」

「うん。奥様のアベール様との間にお世継ぎがお生まれにならなくて、お困りみたい」

「そうなの? ご側室をお迎えすればいいんじゃない?」

「駄目だよう。ベルンハルト様、アベール様を溺愛なさっているからっ!」

「きゃー! 羨ましー!」

「ベルンハルト様も美しいけれど、アルベール様もとってもおきれいだから、早く赤ちゃん出来るといいわね」

「うん、そうよねえ」


「どっちに似ているかなあ」

「ベルンハルト様はまっすぐさらさらの小麦色の髪と珍しいターコイズの瞳でしょう」

「アルベール様も瞳は似た色よね。コバルトグリーンできれいよねえ」

「じゃあ、子どもはきっとああいう美しい瞳ね!」

「きゃー! 早く見たい~」

「髪は何色かなあ。アルベール様は黒茶の髪で、ふわふわっとした髪質よね」

「いずれにしても、美しい赤ちゃんね!」

「楽しみね!」

「ところで、アヤカとヒロキの赤ちゃんも楽しみね!」


 え? 何言ってんだ?

 僕は続きを聞くのがちょっと怖くて、そこからダッシュで走り去った。

 僕と彩香の赤ちゃん?

 ……彩香はなんて答えたんだろう?



 僕はジョアナさんを手伝って一階の食堂で働いて、それからお茶を淹れてコップを二つ持ち、二階の部屋に行った。彩香が色々な葉からいろいろなお茶を作っていて、飲み物も充実してきた。


「彩香」

「あ、弘樹くん!」

「薬草栽培はうまくいきそう?」

「うん! ちゃんと畑作ったし、内緒でちょっとだけ魔法かけておいた」

「よかった」

「うまくいくといいなあ」

「うん。……あのさ、彩香」

「なあに?」

「あの、さっき、赤ちゃんて……」


「ああ、領主様、後継ぎ出来なくて大変そうなのよ。いい方みたいなんだけど。奥様のアルベール様もお優しくて、人気があるの。ベルンハルト様がアルベール様への愛を貫いたことがお二人の人気を高めているのよね」

 彩香はうっとりと言った。

「そうなんだ」

「そうなのよ。お会いしたことないのに、あたしもなんだかファンになっちゃって!」


「うんうん、とこで、あの。あの……彩香、あ、あ、赤ちゃん出来たの?」

「出来てないよ――ヒルダたちのあの話はね、まあ、単なる女子会のおしゃべりだから!」

 じょしかい。恐るべし!

「す、すごい魔法使ってるしね」

「そうそう。妊娠したら困るもの。――今はね」

「い、いまは?」

「うん、いまは!」

 彩香は僕にぎゅっと抱きついて、言った。

「でも、いつかは欲しいな!」

「う、うん」


 ――いつか。

 って、いつだろう?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る