3.村での楽しい異世界ライフ
第17話 料理出来るよね?
「ねえねえ、弘樹くん」
「なに、彩香」
「弘樹くん、料理出来るよね?」
「まあ、それなりに」
「あたし、ベーコン食べたいなあ」
「ベーコン⁉」
「うん。豚肉を燻して作るの」
……それは、料理と少し違うような。
でも、彩香が「ベーコンエッグ食べたい~」とか「BLTサンド食べたい~」とか言うので、ベーコンを作ってみた。ジョアナさんと。彩香はレシピを教える係ね。ベーコン、いい感じに出来た!
僕はジョアンナさんに台所を借りて、ベーコンエッグとBLTサンドを作った。簡単だけど、なかなかおいしそうに出来た。
「おいしー! 弘樹くん、ありがとー!」と彩香。
「ありがとー」これはロラちゃん。
二人で仲良くぱくぱく食べている。
ジョアナさんは「新しいメニューにしようかな」ってつぶやいていた。
ジョアナさんはベーコンを作りながら、いろいろ教えてくれた。
この世界にはときどき、僕たちみたいに異世界から来る人間がいるらしい。
「異世界から来た人はみんな《はじまりの草原》に現れるんだ」
「だから、『はじまり』って付くんですね」
「異世界から来た人はそう思うだろうし、まあ、そういう誤った意味で定着している部分もあるけれど、ほんとうは違う意味での『はじまり』なんだよ」
「どんな?」
「この世界そのものが、あの草原からはじまったという神話があるんだ」
「へえ」
「あの草原が世界のはじまり。《迷いの森》はある種の結界だね。ふつうは抜けられないんだよ。こちらから《はじまりの草原》に行くことも出来ない。だから、《はじまりの草原》のさらに向こうに行くことも出来ない。《はじまりの草原》の向こうは、神に近い場所で、奇跡の生き物がいるらしいよ。でね、異世界から《はじまりの草原》に来た人間は、神に近い場所にある《峻厳の山脈》で果てるか《迷いの森》で迷って果てるか、或いはすごく遠回りして《城塞都市ルミアナ》に辿り着くかなんだ。……あんたたちは《迷いの森》、抜けて来ちゃったけどね」
ジョアナさんはにかっと笑った。
「あんたたちでよかったよ!」
「ドラゴン、連れて来ちゃうし?」
「そうそう」
「ベーコン作っちゃうし?」
「そうそう。それに」
と、ジョアナさんは彩香と遊んでいるロラちゃんを見て、「ロラが楽しそうだから」と言った。
ジョアナさんは旦那さんを亡くしている。それで、ロラちゃんに寂しい思いをさせているのかもしれない、と悩んでいたみたい。僕たちがいることで、ロラちゃんが楽しそうになったんなら、よかった。
彩香とロラちゃんがBLTサンドを食べていると、「おいしそー」っていう声がした。
「リーズちゃん、マノンちゃん!」
ロラちゃんの友だちがやってきて、ロラちゃんの手元をじぃっと見て、それから僕をじぃっと見た。彩香が「作ってあげなよ、弘樹くん!」と自分の分をぺろりと食べて言った。
……まあ、そうなるよね。
僕はもう一度、ベーコンエッグとBLTサンドを作った。
そして、彩香が「また何か、新メニュー作ってね!」とにっこり笑うと、ジョアナさんが「よろしく!」と言い、ロラちゃんたちが「やったあ!」と手を叩いた。
新メニューかあ。
何がいいかな?
「アイスとか!」と彩香が言う。
「冷凍庫がないから無理じゃない? 冷やせないもん」
「そこは魔法で!」
魔法の無駄遣い? 魔法、あんまり必要ないよね、みたいなことを言っていた気がしたけど。
「凍らす魔法、使えるの?」
「ううん、使えない。でも、頑張るよ、アイスのためなら!」
アイスのためならいいんだ。そして、ほんとうになんとかしそうだ……。
アイスはともかく、ここにはないメニューで僕が作れそうで、材料があるメニュー……。
「とんかつとか唐揚げは?」
「いいねえ!」
彩香が拍手して、ロラちゃんたちも勢いで拍手した。だって、「とんかつ」とか「唐揚げ」って分かってないよね? でもきっとおいしそうだって思ってくれたんだよね。気づけば、ジョアナさんまで拍手していた。
おいしい食べ物は幸せだ。
僕たちはこうやって、ここに馴染んでいったんだ。
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