第19話 凧あげと警備隊

 彩香と微妙な話をしていたので、なんだか、ロラちゃんをじっと見てしまう。

「ヒロキ?」

「あ、うん」

 ロラちゃんも僕をじぃっと見て、「今日は唐揚げ作って!」と言った。

「うん、いいよ」

 ロラちゃんは花のように笑った。

 ……かわいいなあ。


 ロラちゃんは僕の手をひっぱって、外に連れ出した。「ね、遊ぼ?」

「うん」

「アヤカちゃんは?」

「ちょっと待ってて。呼んでくるね」



 僕と彩香はロマちゃんと遊びに出かけた。

「何しよっか」

「んーと」

「凧あげしない? 凧作って!」

 彩香の意見で、凧を作ることになった。


 ロラちゃんと凧を作っていたら、ロラの友だちのマノンちゃんとリーズちゃんも来て、いっしょに作ることになった。

「何してんの?」

 声がして顔を上げると、シリルくんがいた。

「シリルくん」

 シリルくんはこの間迷子になったところを助けられて以来、よく遊びに来ていた。

「あのね、凧あげしようと思って! 空にこれ、飛ばすの!」

 彩香が言い、作りかけの凧を見せた。

「空、飛ぶの?」

「うん、飛ぶよ!」

 彩香は自分が空飛びたいんだよね。だから、凧あげしようと思ったのかな?


「オレもやりたい!」とシリルくんが言うと、「おれも」「おれも!」という声がして、シリルくんの友だちがやってきた。リュカくんとジョスくんだ。

「じゃあ、みんなで作ろっか!」

 彩香がそう言うと、ロラちゃんたち女の子は「えー!」と言った。

「そんなこと言わないで、みんなで作ると楽しいよ! ね?」

「別にいいけどお」

 とロラちゃんはシリルくんを見上げるようにして言った。


 ……あ。

 もしかして、ロラちゃんはシリルくんが好きなのかな?

 彩香を見たら、彩香は僕に目配せしてきた。やっぱり!

 ちっちゃくても女の子なんだなあ。



 各々好きな凧を使って、広々とした場所で思い思いに凧を飛ばした。 

 みんなすごく楽しそうだ。

 彩香も楽しそうだ。

「かわいいね」

「うん」

 僕たちが凧あげしていると、ジョアナさんやシリルくんのお父さんのディオンさんや、他の大人たちも来て、いっしょに凧あげを見た。


「すごいね。これ、何て言うんだい?」

 ディオンさんが言った。

「凧です。凧あげっていう遊びです」

「へえ……いいね! 楽しそうだ」

「そうですね。みんな、笑ってます」

「ところでヒロキ。今日もよろしく頼むよ」

「あ、はい!」


 頼むよ、とは夜の警備のことだ。

 僕は戦士の能力を活かして、この村の警備を担っている。魔物は《暗がりの森》にいて、村に襲撃してくることはほとんどないのだけど(いまのところ)、日本みたいに治安がいいわけではないので、警備が必要となる。僕がここに来るまでは、ディオンさんを中心とした若手メンバーで警備をしていたようだが、僕の能力を考え、警備の任を買って出たのだ。僕は《最果ての村》の警備隊の一員となったのだ。


 僕も少しは役に立てているのかな、と思うと嬉しい気持ちになる。

 ディオンさんが僕を見て笑った。僕も笑い返した。

 少し遠くから、シリルくんやロラちゃんの笑い声が響いて、なんだかとても平和でやさしく、豊かな情景だった。

 僕も彩香も、突然この世界に来たわけだけど、僕は(そしてきっと彩香も)、ここでの生活に馴染んで、そしてここが好きになっていた。

 とても。

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