第38話 ルーの話②

「……それで、人狼族の村を出て、《はじまりの草原》を越えて、《迷いの森》に来たのね?」

「ああ、そうだ」

 ルーは何年も一人で《迷いの森》で生活していたらしい。


「ルー!」

 楓はルーの話をどこまで理解したか分からないが、涙を流してルーにしがみついた。

「ルー、いたかったね。よしよし」

 えーと、楓。

 ルーは人狼であって、わんこじゃないんだぞ?

 僕は複雑な気持ちで、楓とルーを見た。


「ぱぱ! かえで、ルーほしい!」


「は?」

 あ、なんか、昔を思い出した。

 ドラゴン、欲しいな! とか、ペガサス、欲しいな! とか言っていた、あの彩香の顔。それと同じ顔をした、楓が言った。


「かえで、ルー、ほしいな!」


 楓、ルーはわんこじゃないぞ、と僕が言おうとしたとき、彩香が言った。

「ルーはね、物じゃないのよ?」

「でも、ママもピンクちゃん、ほしいっていった! ピンクちゃんにおしえてもらったもん!」

 え? ちょ、ちょっと待って。

 楓は、日本語と現地語以外にドラゴン語も話せるってこと? いつの間に⁉

「ペガくんだって、そうだもん。かえではルーがいいんだもんっ」

 え? ペガサスとも話せるってこと?

「お世話はちゃんとするのよ?」

 って、彩香、ルーはわんこじゃないから!

「うん! かえで、がんばる! ね? ルー、かえでといっしょにすむよね?」

 楓はルーのもふもふの胸にぼふんと顔をうずめ、「ルー、よろしくね!」って言った。


 ルーは複雑そうな顔をして「いいんですか?」とぽそりと言った。

「うちは広いからね。部屋もたくさんあるし。――我が家へようこそ」

 ルーに笑いかけながら、僕はそう言った。

 僕は彩香にも逆らえないし、楓にも逆らえないらしい。――でもこれ、幸せの秘訣かもしれない。

 ルーは少しためらいながらも「よろしく」と言ったんだ。

 こうして我が家に、人狼のルーもいっしょに住むことになった。



 ルーのベッドを整える手伝いを、楓が嬉しそうにしていた。

 この世界で生まれて、赤ちゃんのころからドラゴンやペガサスがいる環境で育って。

 しかもどうやら、ずいぶん前から、ピンクちゃんともペガくんとも話していて。

 楓には変な先入観とか偏見とか、そういうものが一切ないんだな、と思った。

 しかし。

 楓はやっぱり彩香にそっくりだ。それはもう、いろんな意味で!

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