第37話 ルーの話①

「はい、どうぞ」

 僕は温かいお茶をルーの前に置いた。お茶の葉は彩香が作ったものだ。我が家にはいろんなお茶の葉がある。今日はラベンダー主体のお茶にした。


「かえでもー」

「はいはい」

 僕は楓の前にお茶を置いた。

「ママ、かえであついの、のめないからこおりいれてー」

 彩香はコップの水を氷にして、楓のカップに入れた。

「ルーも、こおり、いれる?」

 ルーはこっくりとうなずいた。

 そうか。狼は猫舌なのかも。いやいや、狼はイヌ科だけど!

 僕が変なことを考えていたら、彩香が[フリーズ]と言って氷を作り、ルーのコップに入れた。


「ルー、おいしい?」

 ルーはまたうなずく。

 無口だなあ、ルー。

 僕と彩香はじーっとルーを見つめた。

 ルーは楓にだけ反応している。楓もルーのことがすごく気に入っているみたい。もふもふだしね!

「ねえ、ルーは、あの森に住んでいるの? 《迷いの森》に」

 彩香が言うと、ルーはこっくりうなずいた。

「ルーは人狼なの?」

「オレは人狼族と人間とのハーフだ」



 ルーはこのあと、少しずつ少しずつ、話をしてくれた。


「ルー、クッキーたべて? パパがつくったの。かえでもてつだったんだよ!」

 合間合間で、楓が言い、ルーはクッキーを食べたりお茶を飲んだりしながら、ゆっくり話してくれた。

 ルーの父親は《はじまりの草原》の向こうの《峻厳の山脈》のふもとに住む人狼族の一人だった。そして、《はじまりの草原》に現れた人間の娘と出会い、恋に落ちた。


 なるほど、《迷いの森》でルーが迷わなかったのは生まれが関係しているんだ。ルーは奇跡の生き物なんだね、ペガくんと同じ。さっきペガくんがルーをじっと見ていたのは、もしかして見かけたことがあったからかもしれない。少なくとも人狼族のこと自体は、ペガくんは知っていたはずだ。ペガくんが住んでいた《清廉の泉》は、ふもとに人狼族の村があるという《峻厳の山脈》の向こうにある。場所は近い。



 ルーのお母さんが《はじまりの草原》に現れた人間だと知って、彩香は興奮したように言った。

「えー、じゃあ、ルーのお母さんもあたしたちといっしょってこと⁉」

「ママたちといっしょ?」

「そうよ。ママたち、別のところからここに来たのよ」

「へえ! かえでもいってみたい!」

「……いつかね」

「うん!」



 人狼族は長命だ。ドラゴンほどではないけれど、長命な種族である。

 そして、ルーの母親は、ルーの父親が思っていたよりもずっと早く亡くなってしまった。自分の妻を深く愛していたルーの父親は少しおかしくなってしまい、ルーを育てることをやめてしまった。そして、他の人狼族も人間とのハーフであるルーのことをよく思っていなかった。

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