3.楓、人狼の里に行く
第94話 ルーの生まれたところに行きたいな!①
「透は、向こうが好きなんだねえ。あたしはアルニタスが好き!」
「カエデ。人それぞれだよ」
ルーが応えた。
「あたしはね、ずっとルーが好きだよ」
「ありがとう」
「だからね、あたしが大人になるまで、ちゃんと待っていてね!」
ルーは微笑みで返した。
「ああん、もう!」
楓はルーの胸にぼふんと飛び込むと、「そうだ!」と言った。
「あたし、ルーんちに行きたい!」
「え?」
「ルーが生まれたところ、見てみたい! 迷いの森の中のルーのうちじゃなくて、人狼の里に行きたい!」
「人狼の里に?」
ルーが珍しく狼狽えて言った。
「楓、何を言っているんだい? 人狼の里は、《はじまりの草原》の向こうの、《峻厳の山脈》の麓だから、かなり遠いよ」
そばで見ていた弘樹も驚いたように言った。
「遠いのなんて、分かってるよ! でも、あたし、ルーの生まれたところに行きたいし、ルーのお父さんに会いたい! お母さんは死んじゃったって聞いたけど、お父さんは生きているんでしょう?」
「ああ」
「あたし、ルーの生まれたところに行きたいなっ! ルーんちに行く!」
弘樹はおでこに手をやり、そして思った。
ああ、なんか、懐かしい、このノリ――絶対に止められないやつだ。
弘樹がルーに視線をやると、楓に抱きつかれた格好のルーも弘樹を見ていた。そして、二人とも苦虫を潰したかのような笑いをして、人狼の里に行くしかないことを悟ったのである。
「――ルー、すまないけど、よろしく」
「……ああ」
そうして、楓は人狼の里に行くことになったのである。
「人狼の里は遠いって言ったけど、ミドリちゃんに乗って行けばひとっ飛びよね!」
楓はミドリちゃんに乗りながら気持ちのよい風を体いっぱいに受けて、ご機嫌だった。
ルーは楓を抱えるようにしてミドリちゃんに乗っていた。
ママ、相変わらずドラゴンに乗れないのよね、かわいそう!
楓はそう思い、くすくすと笑った。
「何を笑っているんだ?」
「ママって、ドラゴンに乗れなくてかわいそうだなって思って」
「ああ、そう言えばそうだな」
「乗り物酔いの薬飲んでも、ペガくんには乗れても、ピンクちゃんには乗れないじゃない?」
「まあ、彩香も万能じゃないってことだ」
それでも余りある才能があるのだが、とルーは心の中で付け加えた。
楓は、ルーとミドリちゃんとで人狼の里に向かっていた。
最初は弘樹もいっしょに行こうとしていたけれど、「あたしもう九歳だから!」と楓が頑なに言うのと、ルーが「オレがついているから」と言うのとで、このメンバーになったのである。
「うふふ! ルーのおうち、楽しみ!」
「……随分、帰っていないから、どうだか分からないぞ」
「きっとだいじょうぶよ!」
何が? とは思ったけれど、ルーはくすっと笑っただけで、口にはしなかった。
『あのね、あたし、カエデちゃんたちを送り届けたら、ちょっとドラゴンの里に行きたいな』
ミドリちゃんが言った。
「うん、いいわよ!」
『ありがとう、カエデちゃん。お父さんにもひいじい様にも会いたいし。モモちゃんがどうしているのかも知りたいし』
「うんうん」
『それにね、気になることもあるの』
「気になること?」
『うん。ドラゴンネットワークにね、流れてきた情報があるんだ。でも、ちょっとよく分からなくて、お母さんに直接行って内容を確かめて来てって言われているの』
「そうなの」
『ちゃんと分かったら、話すね』
「よろしくね」
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