第110話 ルーが教えてくれた神話の時代のこと①
「ヒロキもアヤカも、もともとはここの住人じゃないのに。……嬉しいよ」
ルーはそう言って静かに微笑んだ。
「だって、好きだから!」
彩香が言って、楓が頷いた。
「問題は好きかどうかなのよ!」
彩香がまた言って、楓が「好きかどうかなのよ!」と繰り返した。
弘樹は二人を見て笑い、ルーも笑った。透は一見無表情だったけれど、でもくすっとしたのを弘樹は見逃さなかった。それから彩香を見て、思った。
重大な案件でも、彩香の手にかかると、魔法のように何とかなりそうな気持ちになる。
不思議だな。
「ところで、ちょうどいいタイミングだから、みんなに話しておきたいことがあるんだ」
ルーが口を開いた。
「どんなこと?」彩香が言う。
「神話なんだ。――人狼に伝わる、古い古い昔話だ」
神話の時代、人間と《神に近い生き物》はもっと近くにいたんだよ。
いっしょに生きていた、と言ってもいい。
今では、人狼とニンゲンの混血は珍しいものになってしまったが、神話の時代は、どうも当たり前にあったことだったらしい。だからオレも人狼の中にいられたんだ。
ところで、知っているかな?
ドラゴンは、かつては人型になれたものもいたって。
……うん、これはとても古い話だから、ほとんど知られていない。遠い昔の話だ。
ドラゴンの里も、今では統一されているけれど、その昔はいくつかに分かれて争っていたんだ。この話は、族長にだけ言い伝えられている。だからもしかしたら、ドラゴンも王位を継ぐものだけに伝えられることかもしれない。ドラゴン族が統一されたのは、歴史的出来事だったと聞いている。
ドラゴン族を統一した、初代ドラゴン王の妃はニンゲンだったそうだ。王が王になる手助けをし、彼女がいなかったら統一は果たせなかったかもしれないとも言われている。
妃は世界を渡って来たニンゲンだったらしい。
特別な能力があったとも言われているが、その詳細は分からない。
……オレが何が言いたいかと言うと、要するに、神話の時代には、《神に近い生き物》とニンゲンはともに生きていたということ、そして、混血は珍しくなかったということ、ドラゴンとニンゲンの婚姻だってあったということ。
何より、ドラゴン統一に手を貸したのが、ニンゲンの妃だったということだ。
もしかして、何か大きなことが起こるときは、種族を超えて手を取り合うということが、このアルニタスでは必要なのかもしれない。
だからいま、ヒロキとアヤカがいて、カエデがいてトオルがいる。
そして、《最果ての村》から、この世界を変えていっている――よりよく。
それはもしかして、アルニタスが望んだことなのかもしれない。
だから、カエデがアルニタスの、世界の声を聞いたとしても、何ら不思議はないと思うんだ。
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