第56話 いってきます! 帰って来るからね!

 僕たちは《はじまりの草原》に来ていた。

 ここから、日本へ帰るから。

《はじまりの草原》は、世界が始まった場所。そして、他の世界とつながっている場所。

 僕と彩香と楓の三人で日本に行く。


「それで、戻ってくるんだよな?」

 ルーが少し心配そうに言う。

「もちろん!」

 楓はそう言って、ルーに抱きついた。もふもふが気持ちよさそう!

「ルー、だいすき!」

 ピンクちゃんは背中に子ドラゴンを三匹乗せて、僕たちをじっと見ていたし、ペガくんだって神妙な面持ちで僕たちを見ていた。


「帰ってくるよ」

 僕は、ルーとピンクちゃんと、それからペガくんをちゃんと見て言った。

「だって、ここが僕たちの生きていく場所だから」

「楓はここで生まれたしね」

 彩香はそう言って、楓を抱っこした。

「でも、あたし、楓をあたしのお父さんやお母さんに見せてあげたいの。弘樹くんのお父さんやお母さんにも。……ピンクちゃん、分かってくれるよね?」

 ピンクちゃんは優しく鳴いた。


「じゃあ、魔法陣書くね!」

 彩香は楓を僕に預けると、草原に光で魔法陣を書いた。

 複雑なその紋様を書き終わると、彩香は魔法陣の中心に僕たちを呼んだ。

 魔法陣の中央に立つと、「じゃ、行って来るね! 留守、よろしく!」と言って、呪文を唱えた。

 ルーが手を振ってピンクちゃんが尻尾を振り、ペガくんが羽根を羽ばたかせるのが見えた。

「ねえ、彩香」

「何?」

「そう言えば、三つの報告があるって言ってたじゃない?」

「うん」

「一つはピンクちゃんの子ども、一つはこの帰還魔法。もう一つは何?」


 彩香はうふふと笑うと、楓を抱っこしている僕をぎゅっと抱き締めると、「あのね」と、言った。

「あのね、日本に帰るのは三人じゃないの」

「え?」

「あたしね、赤ちゃんが出来た!」

「ええええ⁉」

 僕は嬉しくて叫んでしまった。あ、まあ、うん。僕たちは仲良しだしね!

「まま、あかちゃんできたの?」

 楓が言う。

「そうよ」

 彩香はそう言って、僕から楓を受け取り抱っこして「楓はお姉ちゃんになるのよ」と楓をぎゅっと抱き締めた。


「あ、それから弘樹くん」

「何?」

「日本には行けるんだけど、時間軸の設定が難しかったの」

「というと?」

「あたしたち、こっちに来て長いじゃない? 子どもも出来たし!」

「う、うん」

 なんとなく赤くなってしまう。

「でもね、ポイントを繫げるとき、時間軸をね、どうしても同じに出来なかったの。どうも時間の流れがちょっと違うみたいで」


「じゃあ、どの時間に着くの?」

「たぶん、あたしたちがこっちに来てから、半年後くらい!」

「え? たったの⁉」

「うん、そう。……そのくらいの方が、あまり心配かけ過ぎなくていいかな、とも思ってね」

「なるほど。でも、僕たちの姿、不自然じゃない? 五年以上経ってるよ」

「たぶん、あたしのお母さん――あたしのママならだいじょうぶ! 分かってくれると思う。だから、あたしのうちに座標を合わせたよ。弘樹くんちはそのあとでね!」

「分かった」

 僕は楓ごと彩香を抱き締めた。


「ママのママ?」

 楓が不思議そうな顔をする。

「そうよ、楓。あたしのママ。あなたのおばあちゃんよ。――おばあちゃん、なんて言ったら怒りそうだけど。まだ若いし。あ! あたしの妹もいるわ。織子おりこって言うの。七歳だから、クリストフ王子より年下ね」

「織子ちゃん、叔母さんになるね」

「う。でも、叔母さんって言う年じゃないわ。――お姉さんで! あたしのママも、織子も!」

「かえでにおねえさん、できるの?」


「そう! あ、そろそろよ。――懐かしい、うちのリビングだ! ママもいる、織子も!」




 ただいま!





      第2章 ほんわか異世界ライフと「夢は叶うんだよ!」 了




                                 


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