第3話 森を抜けて、村へ①

 僕と彩香は森を抜けて、村に辿りついた。

 小さな集落だった。

 家々が点在していて、畑らしきものが見えた。人もいた。

 でも、当然日本人じゃない。西洋人に見える。ここはヨーロッパのどこかなのだろうか。


 僕が悩んでいると、彩香がすたすたと歩いていき、「こんにちはー!」と村人に声をかけて、ぎょっとした。え? ちょっと様子を見てからじゃないの? 僕は慌てて彩香の後を追いかけた。

 農作業中とおぼしき、中年の男女の前に来る。二人とも鳶色とびいろの髪にオリーブグリーンの瞳。いかにも中世ヨーロッパの農夫らしい恰好だ。


 よくある異世界転移だと、言葉は通じるんだよな、とちょっと安心して「こ、こんにちは」と言ったら、全然知らない言語が耳に飛び込んできた。英語でもフランス語でもない。え? 何て言ってんの? 僕は焦って彩香を見た。

 すると彩香は「翻訳機能あるよ、弘樹くん」と言って、にっこり笑った。

 は? 何言ってんの? 翻訳機能? 

 彩香はステータスを見ながら、謎の言語を話す。しだいに話が弾んだようだ。笑い合っている。初対面の、しかも異世界の人と現地語で!


 そう言えば、彩香はクラスでも人気者だった。勉強が出来るから、ではなくて、彩香は誰とでも気さくにしゃべるし明るいし、ちっちゃくてかわいいから、男子にも女子にも好かれていた。

 彩香に告白されたとき、密かに憧れていたからすごく嬉しかったけれど、同時に不思議で「どうして僕なの?」とつい、聞いてしまった。そうしたら彩香はにっこり笑って、「あのね、あたし、弘樹くんの顔が好きなの!」と高らかにのたまった。

「か、かお?」……全然イケメンじゃないけど。

「あのね、あたしの好きな顔なの、弘樹くん。特に横顔が好き!」

 ……顔。……なんかフクザツな気分。

「それからね、弘樹くん、優しいから!」

 あ、それはよく言われる。

 僕はちょっと気を取り直して、彩香を見た。彩香は太陽のような笑顔で「でね、弘樹くん、あたしの言うこと、何でも聞いてくれそうな気がして!」と言った。

 僕は彩香に何て答えたかよく覚えていない。ともかく、そもそも彩香には憧れていたし、断る選択肢はなかった。しかし、だけど、つまり僕は、以来、彩香には逆らえないでいるってわけなんだ。

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