第4話 森を抜けて、村へ②

 異世界の人との話が無事終わって、彩香は「弘樹くん、こっちこっち~!」と僕を呼び寄せた。

「あのね、宿屋を教えてもらったから、そこに行こう! 一軒しかないらしいよ。でも、ごはん、おいしいんだって! 一階が食堂で二階が宿泊部屋の宿屋さん。あたし、お腹空いちゃったー!」

 もしかして、さっき森の中でやたらと食べられる野草の話をしていたのは、お腹が空いたから? そりゃ、僕もお腹空いたけど……。


「ねえねえ、彩香、翻訳機能って何?」

「ステータスの端っこのところにあるでしょ?」

「え?」

 僕はステータスを出してみた。

 ……確かに、右端の下にある。ぽちっと押してみた。

 そのとき、僕たちの前を歩いていた異世界の人がこっちを振り向き、何か言った。すると、ステータスに何か文字が浮かんだ。


 何だ? これ?

 一行目は謎の文字配列。二行目はアルファベット。でも英語じゃない。三行目は日本語。

「もうすぐだよ。あの角」異世界の女性の方がそう言って、彩香は「ありがとう」と言ったらしい。現地語で。三行目の日本語によるとそういうことらしい。


「彩香、彩香」

「何、弘樹くん」

「なんで、彩香、話せるの?」

「だから、翻訳機能があるから。一行目がここの言語表記でしょ。二行目が発音。アルファベットで書いてあるでしょ。で、三行目が日本語。自分が話したいときは文章を思い浮かべると、いいんだよ」

「なるほど」

「あたしね、いろんな国の言語に興味があって、いろいろ本を読んでたんだー! 役立った! ここの言語、そんなに難しくないから、すぐに話せるようになるよ。文字も簡単だし」

「……そうなの?」

「うん。文字はねえ、日本語みたいに音節文字みたい。子音と母音で一文字なの。音をそのまま表しているから、覚えやすいよ。しかもね、一文字の中の子音と母音の組み合わせが見て分かるから、すごく分かりやすい」

 ……どこが?

 僕には彩香こそ、異世界人に見えた。


 宿屋の前で案内してくれた人たちと別れた。

 僕たちはガランと音を立てて、宿屋の扉を開けた。

 すると、恰幅のいい、ブラウンの髪と目をした女性が元気よく僕たちを迎えてくれた。くせ毛の髪は後ろで一つに結わえていた。

「いらっしゃい!」

「あの、二人でしばらく宿泊したいんです。それからお腹空いちゃって! 後払いが出来るって聞いたけど、大丈夫ですか?」

 彩香はステータスを開きながら、すらすらと喋った。ステータスはどうもここのひとたちには見えていないみたいだ。それにしても、彩香はもともとこの言語が話せたのかってくらい流暢で、逆に怖い。


「いいよ! あんたたち、異世界から来たんかい?」

「うん、そうだよー」

「《迷いの森》を抜けて来たってほんとうかい?」

「うん、そう! 川を辿ってきたの」

「川って、まさか《揺らぎの川》?」

「森の向こうの草原の、さらに向こうの山から流れている川を辿ってきたんだよ。それのことかな」

「それが《揺らぎの川》だよ。ふつうのひとは見えないから辿って歩くことが出来ないから、ふつうは森で迷ってしまうんだよ」

「へえ。あたし、全然迷わなかったよ! 幸運の力のせいかなっ」

 ……僕一人だったら、迷っていたに違いない。

「そりゃ、幸運の力のおかげだねえ」

 と言って、宿屋のおかみさんは豪快に笑った。


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