第22話 ペガサスのいる泉①
僕たちは旅支度をして、ペガサスを探す旅に出た。ピンクちゃんは連れて行こうか迷ったけれど、結局、連れて行かないことにした。ペガサスは美しい動物で見目麗しいけれど、気性が荒くてプライドの高い性格らしい。ピンクちゃんを連れていったら、もしかして逃げてしまうかもしれない、という判断だ。
そこで、ピンクちゃんはジョアナさんにお世話をお願いして、おいていった。動物を飼うのは楽じゃない。でも、ロラちゃんが「あたしがお世話するから大丈夫!」って張り切っていたから、情操教育(?)にはいいのかな。
彩香との旅は自由気ままだ。
まっすぐ目的地に向かうかと思いきや、いろいろ寄り道をする。おいしそうな果物があるから、とか、かわいい動物がいた、とか。彩香はとても楽しそうだ。
「でもねえ、弘樹くん」
「何?」
「あたし、ほんとうはとっても心配なの」
「……何が」
心配ごとなんて、まるでなさそうだけれど、そう聞いてみる。
「あたしね、メリーゴーラウンド、だめなの」
「だめって?」
「だーかーらー! メリーゴーラウンドに酔うんだってば!」
「え?」
まさか、あの幼児の乗り物で?
「だから、あたし、もしかしてペガサスに乗れないんじゃないかって、ほんとうにものすごく心配しているの」
「それは……」
絶対無理じゃない? と思ったけれど、口には出さなかった。
「あーあ、あたし、空飛びたいのになあ。……ペガサスに乗れなかったら、魔法で飛ぼうかなっ。うん、そうしよう!」
彩香はいつでも前向きである。そして、きっと本当に魔法を習得しそうな気がする。
《迷いの森》を抜けて、《はじまりの草原》に辿り着いた。
「ここが、僕たちのここでの生活のはじまりだったね」
僕は彩香の手をぎゅっと握り締めた。
「うん、びっくりしたよ、いきなり草原に来て」
「え? 彩香でもびっくりするの?」
「するよー」
ふふふと彩香は笑う。
彩香といっしょでよかったな、と思う。そうでなければ、きっともっとずっと大変な思いをしていたに違いない。
「ねえ、彩香。この世界、異世界からときどき人間が来るみたいなんだよ」
「うん、知ってる。ヒルダたちに聞いたよ」
「異世界から来た人間は必ずこの《はじまりの草原》に現れるみたいだね」
「うん、そうだってね」
「僕たちから見たら、ここが『はじまり』だけど、そもそもここは、この世界の『はじまり』の場所なんだよって、ジョアナさん、言ってたよ。そういう意味の『はじまり』なんだって」
「へえ。……あたし、弘樹くんといっしょでよかったな」
彩香が僕と同じことを思っていたと知り、喜びが込み上げる。
「……僕こそ、彩香といっしょでよかったと思ってるよ」
僕たちは見つめ合って、そして誰もいない草原でキスをした。……誰もいないから、いいよね?
「ねえ、彩香。ペガサス乗れないかもしれないけど、やっぱり探しに行くんだよね?」
僕は念のため確認してみた。彩香は当然って感じで「うん!」と答えた。
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