第23話 ペガサスのいる泉②

《はじまりの草原》はかなり広い草原だった。

 歩いて歩いて、ようやく《峻厳の山脈》の麓に辿り着く。

「これを越えるんだね……」

《峻厳の山脈》はその名の通り険しく、また人の手が入っていないから、道すらなかった。――これ、どうやったら登れるんだろう?

 僕は絶望的な気分になった。


「あのね、左手の方にぐるっと回ればいいってピンクちゃん、言ってたよ」

「山を?」

「うん。本当はそのルートは絶対に迷うから行けないはずなんだけど、あたしなら行けるだろうって。幸運九十九だから」

 ……なるほど。


 僕たちは《峻厳の山脈》をぐるっと回って、歩いて行った。ここも道なき道で、正直これでいいのか悩ましかった。しかし彩香が進む方に行けば大丈夫な気がして、とにかく進んで行った。


 何日か進んで行ったら、突然光が降り注ぐ明るい場所に出た。

 そこには、美しい泉があった。

 こんなにきれいな水を湛えた泉を、僕は見たことがなかった。

 泉の水はどこまでも澄んでいて、陽の光を反射してきららきらと光を放ち、水なんだけど透明な虹のようにも見えた。

 泉の周りの樹々は白樺で、煌めく緑色を揺らしていた。

 そして、一面の花畑! 色とりどりの花が咲き乱れていた。幻のように美しい場所だった。


「きれい……」

 彩香は花畑の中に一歩足を踏み入れた。

 すると、水音がしてそちらを見ると、真っ白なペガサスがいた。

 彩香と僕はペガサスの方を見た。ペガサスも僕たちをじっと見つめた。

「ペガサス……」

 ペガサスは真っ白な羽根をばさっと音を立てて広げた。

 なんて美しいのだろう。


 彩香は吸い寄せられるようにペガサスに近づいた。ペガサスも彩香をじっと見ている。

 彩香はペガサスのたてがみに触れた。

 ペガサスが頭を下げたので、彩香はペガサスの頭を撫でた。ペガサスが頭を彩香に摺り寄せる。彩香も頬を寄せる。

 実に幻想的な光景だった。


「彩香……」

 僕が彩香の名前を呼ぶと、ふいにペガサスが顔を上げて僕をじっと見た。……え? 睨まれた? ……気のせいだよね?

 彩香はペガサスと何ごとかを話しているようだった。

 ……ペガサスとも話せるんだ。

 とりあえず、僕には翻訳機能をもってしても、無理。

 あ。笑ったりしている。

 ペガサスと目が合う。――やっぱり、睨まれてる気がする……。


「弘樹くん」

「あ、うん」

「ペガくんね、いっしょに《最果ての村》に行ってくれるって!」

「よ、よかったね!」


 ペガ“くん”? もしかして、雄? だから睨んできたの? 嫉妬とか? ――まさかね。てゆうか、相変わらず安直なネーミング。ペガサスのペガくんなんだ。

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