5.「いってきます!」「ただいま!」

第53話 禁断の書の使い道

 僕たちの家はさらににぎやかになった。

 クリストフ王子は自分のドラゴンに乗って来たので、ドラゴンも増えたのだ。きれいなオレンジ色のドラゴンで、曙みたいだと僕は思った。

「ボレアスって言うんだ!」

 クリストフ王子は目を輝かせながら言った。

「この子、女の子ね。ピンクちゃんが友だちが出来て嬉しいって言ってる」

「え? 女の子なの⁉ 知らなかった!」


 そう、ピンクちゃんと言えば、あの後しばらくして卵を産んだのだ。

 ピンクちゃんは毎日卵を温めながら、ボレアスにいろんなことを教えていた。ボレアスは鎖生活に慣れてしまっていたけど、ここでは鎖はないから自由にしていいんだよってこととか、それにドラゴンネットワークのことも分かっていなかったので、そのやり方なんかも教えているらしい。ボレアスはなんだかとても元気になっていった。



「ねえ、ピンクちゃんの子どもね、次のドラゴンの王になるみたいよ」

「え? そうなの? ピンクちゃんは?」

「ピンクちゃんはね、あたしたちといっしょにいることを選んだでしょう。その代わり、子どもを王になれるような子に育てるって約束したみたい。――まあ、生まれてみないと分からないけどね」


「ところでさ、彩香、禁断の書って何に使うの?」

「あたし、ずっと日本に帰りたかったの。弘樹くんもでしょ?」

「うん、そうだね。楓を見るたびに、弟や妹のことを思い出すんだ。それからお父さんやお母さん、友だちのことも」

「あたしもなの。いつか言ったでしょう。『夢は叶うんだよ』って」

「うん」

「禁断の書を見たら、世界を渡る方法が分かるんじゃないかって思ったのよ」

「……そうかあ」

 僕はもう遠くなった日本を思い出した。


「ねえ、弘樹くん。正直に答えて欲しいんだけど――日本に帰れたとして、日本に住みたい?」

「……日本には帰りたいけど、でも、生活の基盤みたいなものは、こっちで出来上がっているしなあ。それに僕、ここが好きだ」

「あたしもなの! それに、楓はたぶん、こっちの方が幸せだと思う。何しろここで生まれたしね」

「うん。ただ、元気でいるよって伝えたいんだ。それに、楓を見せてあげたい」


「そうよね! 楓、かわいいもの。あのさ、日本に住んでいたって、結婚したら、そんなにしょっちゅう親に会うわけじゃないじゃない?」

「そうだね」

「あたしたちは結婚して海外に住むような感覚でいいんじゃないかな? 行き来出来るようになったら」

「そう出来るといいね」


「出来るわよ! 夢は叶うんだよ‼」

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