第54話《最果ての村》は《はじまりの村》①

 クリストフ王子がうちに来て修業を始め、しばらくしたらベルンハルト様とアベール様が「フェルディナントもお願いしたい」と言い出し、フェルディナント様もうちに来た。


 クリストフ王子は九歳、楓とフェルディナント様は四歳になっていた。

 学校運営も、マーティアス王の支援により、順調に進んでいた。ルーは学校で体術を教えたり、また豊富な植物や動物の知識を教えたりもしていた。ピンクちゃんやペガくんと同じように、ルーも《最果ての村》になくてはならない存在となっていた。


「ふふふ」

「どうしたの、楓」

「あのね、ルネちゃんがね、フェルディナントさまがこっちにきてうれしいっていっているの。ルネちゃんはフェルディナントさまがすきなんだよ」

「へえ。そうなんだ」

「うん! かえではフェルディナントさまがきたのもうれしいし、クリストフおうじがきたのもうれしいな。おともだちだから!」

「よかったね」

 僕は楓の頭を撫でた。


「それからね! ルーがきたことがいちばんうれしいの! だって、ルーはかえでのとくべつだから!」

 え? 楓、それ、どういう意味?


 訊こうとしたら、楓は走って行ってしまった。

 楓は、ルーが特別に好き? 恋?

 ――まさかね。



 僕たちがいるのは《最果ての村》だ。

 でも、水車が出来て小麦粉が作れるようになり、うどんは《最果ての村》の名産品となった。そして今度は学校が出来て、しかも王や領主の息子も村に滞在し、学ぶようになった。


「ねえ、彩香。ここ、最果て、というより、はじまりって感じしない? 《最果ての村》じゃなくて《はじまりの村》みたいだ」

「そうねえ、《はじまりの草原》に近いしね。あそこは世界のはじまりだし、それに他の世界との接点だしね。もしかして、《はじまりの草原》に行かせたくなくて、この村を《最果ての村》と名付けたのかも」

「なるほど」


 僕は目の前に広がる田畑と、その向こうに広がる《迷いの森》を見ながら、さらに元いた世界である日本を思い出していた。

「ねえ、弘樹くん、いま日本を思い出しているでしょう?」

「なんで分かったの?」

「分かるよー、だって、ずっといっしょにいるもん! ね?」

 彩香に抱きつかれて、僕はどきどきした。


「あのね、弘樹くん! 報告が二つあるのよ。あ、三つかな?」

「何、彩香?」

「あのね、もうすぐピンクちゃんの子どもが生まれるのよ! 卵にひびが入ってきたって、ピンクちゃんに教えてもらったんだ」

「へえ!」

「ピンクちゃんのところに行ってみよ!」


 僕は彩香に手を引かれて、ピンクちゃんのところに行った。

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