第42話 ピンクちゃんの恋人①

「飛んで来ると早いね!」

 僕はペガくんを探しに来たときのことを思い出して、彩香に言った。

「う、うん……」

 彩香は息も絶え絶えだった。

「どうしたの?」

「たぶん、薬、切れた……」

 彩香が真っ青な顔をしていた。ペガくんが心配そうに彩香の顔を舐めていた。

「うん、でも、薬飲めばだいじょうぶ」

「ちょっと休憩しようか?」

「うん」


 僕たちはそんなわけで、《峻厳の山脈》のふもとで一休みすることにした。

 目の前には《はじまりの草原》が広がる。

 どこまでも続く草原。

 そして、青い空。

 懐かしいな。


 ここは世界が始まった場所だとジョアナさんは教えてくれたけど、僕と彩香にとっては、ここでの生活が始まった場所で、ものすごく思い入れのある場所だ。


 彩香は座っているペガくんに寄りかかって座り、楓はピンクちゃんと遊んでいた。

 やさしい風が吹く。

 この風景を切り取って持っていたいって思った。

 写真みたいに。

 でも写真は撮れないから、僕は忘れないよう、こころの中にしっかりとしまったんだ。



《峻厳の山脈》の上にドラゴンの里はあった。

 ここは大陸ドラゴンの里で、ナッカーやワイバーンはまた別のところに里があるらしかった。


「ピンクちゃんも初めて来るんだよね?」

 彩香が言うと、ピンクちゃんは何事かを答えていた。

 ピンクちゃんは人間の手で育てられ、人間を乗せて飛ぶように育てられたドラゴンだった。だけど、ドラゴンネットワークの思念伝達でさまざまな情報を得ていて、ピンクちゃんは実にいろいろなことを知っていた。自分の血筋のこともドラゴンの里のことも。みんんな、ドラゴンネットワークで知ったんだって。


 通常、人間を乗せるためのドラゴンは鎖で繋がれていて、自由は全くないらしい。でも、ピンクちゃんは自由だ。だって、大切な家族の一員だから。ピンクちゃんが言うには、鎖で繋がれていると、こころも弱ってしまうそうだ。だから、鎖で繋がれたドラゴンは、野生のドラゴンよりずっと短命らしい。ピンクちゃんのお母さんがそうだったらしい。

 ピンクちゃんは自由に生きることが出来たから、こころが弱らず、ドラゴンの里へ行こうって思えたんだって。彩香によるとね。


 ピンクちゃんと僕たちがドラゴンの里に着いたら、色とりどりのドラゴンに出迎えられた。

「『おかえりなさい』って言っているのよ」

 彩香がこっそり教えてくれた。

「『ドラゴンの王の血筋を引く娘よ、おかえりなさい』って。ピンクちゃん、すごく喜ばれている!」

 彩香は興奮したように言った。


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