第15話 ドラゴンってお役立ち!③

 僕たちはまずは彩香の記憶を辿ることにした。

 何しろ、彩香は目にしたものを写真みたいに脳内保存出来るらしいから、彩香が見た映像の中のシリルくんを探すことにしたのだ。


「シリルくん、ピンクちゃんが好きだから、よく遊びに来てたんだよ」

 ドラゴンのピンクちゃんを見に来る子どもは一定数いた。

「で、今日も来ていたの?」

「うん、そう。朝、ピンクちゃんが隣村に行くのを見に来ていたよ。それで、弘樹くんが荷物を積んでピンクちゃんを飛ばして、……んーと、待って。視界の端にいるから。あたし、弘樹くん見ていたし」


 僕は「あたし、弘樹くん見ていたし」に反応してにやけてしまったので、口元を手で隠していた。いかんいかん。迷子のシリルくんを探さなくては。

「んーと、シリルくん、ピンクちゃんを追いかけて走っていった。それから……村の境界の《神秘の川》を越えてしばらく走ってから、……! 《迷いの森》の方へ行った!」

「《迷いの森》! それだ‼」

 僕は彩香と顔を見合わせた。



 僕と彩香はピンクちゃんを連れて《迷いの森》に来ていた。《神秘の川》を辿って。ふつうの人には見えないという《揺らぎの川》も、《迷いの森》を抜けるとふつうの川になり、《神秘の川》と名前を変える。


 僕たちは、まずは《揺らぎの川》に沿って《迷いの森》を歩いた。……まあ、《揺らぎの川》は彩香にしか見えていないけどね。

「ねえ、懐かしいね! 《はじまりの草原》から人里を探して来たときも、この森を歩いたよね」

 彩香は無邪気に言う。

「うん、懐かしい」


 二ヶ月弱くらいのことだけど、ずいぶん前のことみたいだ。

 僕は、家のことや学校のことを思い出していた。みんな、どうしているかな。……なんだか少し寂しくなった。

 すると、彩香が僕の手をぎゅっと握って、にっこり笑って言った。

「弘樹くん、今日ね、すごい魔法を見せてあげるね。だから、落ち込まないで?」

「お、落ち込んでなんかいないよ」

 僕は寂しい気持ちを見透かされて、……ちょっと恥ずかしくなった。彩香だって、同じ立場なのに。


「ふふふ。……あ! 見て、あそこ」

 彩香が指さす方を見た。――でも、何で指をさしたのか、分からなかった。

「何?」

「ほら、ここ、枝が折れているでしょ? まだ新しい折れ方」

「あ、うん」

「それに、ここ。誰かが通った跡だよ」

 その跡は僕には分からなかったので、あいまいに頷く。

「シリルくん、あっち方に行ったんだよ、きっと」

「動物じゃないの?」

「違うと思う。背の高さを考えると、きっとシリルくんだよ」


 僕はピンクちゃんに乗って、空に浮かんだ。

 ゆっくり飛行して、シリルくんを探す。

 あまり上に上がると緑で見えないので、なるべくすれすれのところを飛ぶ。

 だんだん陽が傾いてきたから、早く見つけないと!

「弘樹くん、シリルくんいたら教えて!」

 彩香が地上から大声で言う

「分かった!」



 ほどなくして、僕はシリルくんを見つけた。ピンクちゃんがひと声鳴き、シリルくんが上空の僕たちを見つけた。

「ピンクちゃん!」

「シリルくん、今から彩香呼んで来るから、そこで待っていられる? 動かずに」

「うん!」

 そこはピンクちゃんが下りる場所がないところだったので、僕は彩香のところに戻り、彩香をシリルくんのところに導いた。彩香はピンクちゃんのところまでシリルくんを負ぶってきた。小柄な彩香には重労働だったと思う。


 シリルくんはぐったりしていた。

「すごい熱だ……」

「きっと、疲れちゃったんだね。《迷いの森》から出られなくて、いっぱい歩いたんだと思う」

「どうしよう?」

「あたし、薬草を煎じたものを持っているから、シリルくんに飲ませるよ」

「うん」

 彩香はシリルくんに薬草を飲ませてから、[ヒール]と言って回復魔法をかけた。シリルくんの顔色はよくなり、熱も下がったみたいだ。


 僕たちはシリルくんを村長さんちに送り届けた。村長のイヴォンさん、そしてイヴォンさんの奥さんのオラールさんにも、シリルくんのお父さんのディオンさん、お母さんのシーラさんにもすごく喜ばれて、嬉しかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る