第105話 まずは蕎麦を食べましょう②
ピンクちゃんに弘樹、ミドリちゃんに楓とルー、それからペガくんに彩香が乗って、あっという間に《迷いの森》のルーのログハウスに辿りついた。
「へえ、ルーの家っぽいね」
彩香が言うと、「そうでしょ!」と、楓がなぜか自慢げに言った。
「その白い花はこっちにたくさん咲いているよ」
ルーが案内した方へと行くと、一面に白い可憐な花が咲いて、ゆらゆらと微風に揺れ、とても美しい光景だった。
「きれいだね」
「そうでしょ!」
楓はやはり自慢げに言う。
「この花が、蕎麦とやらの花なのか?」
「うん、そうなの! とりあえず、半分だけ時間を早めてしまおうかな。〔セイブ・タイム〕!」
お米もこうやって、一晩で収穫が出来るようになったけ。
弘樹は初めて米を収穫した日のことを、また思い出していた。
蕎麦の花はあっという間に黒っぽい実になった。
「じゃあ、頑張って根元から切って収穫するよ!」
彩香はにっこりと言い、楓は「はーい!」と張り切って返事をした。
弘樹は大変だと思ったけれど、何しろ彩香には逆らえないので、一生懸命収穫をした。
疲れても回復魔法かけてもらえるしね。
「ねえねえ、蕎麦の実がどうやったら蕎麦になるの?」
楓が彩香に訊くと、
「まずね、乾燥させるの。それから、砂とかゴミを取り除いて、殻を剥いて挽いて粉にしたものを、捏ねて練って伸ばして切って作るんだよ」
と、彩香が応えた。
「へえ。殻を剥くの、大変そうだね」
「うん、だから、最初はないしょで魔法でね?」
彩香はえへへと笑った。
「だって、早く食べたいじゃない!」
「うん、楓も!」
日が暮れる前にみんなで収穫をして家に帰った。
黒っぽい蕎麦の実。
お米とはちょっと違うなあ、と楓は思った。
「これが蕎麦になるんだね!」
「うん、そう。蕎麦粉にするところまではあたしがやるからね、麺は弘樹くんが作ってね!」
「あ、やっぱり?」
「そう! でね。今回、めんつゆはね、日本で仕入れてくるね! でね、いったん食べたあと、めんつゆをここでどうやって作るか、考える」
簡単に夕食を済ませ、彩香は蕎麦粉を作り、ポータルで日本に行こうとした。そのとき、透が来て「ぼくもいく!」と言った。
「透? 今回は斗真くん、いないよ」
「いいの。ちょっとおじいちゃんにききたいことがあるんだ」
「パパに?」
「うん!」
「分かった。じゃあ、いっしょに行こう!」
彩香たちの姿が消えたあと、「じゃあ、僕たちは明日の朝早くから麺を作らなくちゃいけないから、早く寝ようか」と弘樹が言った。
「うん、楓、疲れた」
それはそうだろう、と思って弘樹はくすりと笑った。何しろ、人狼の里から帰ってすぐに蕎麦の実収穫をしたのだ。
「お風呂に入って、早く寝るといいよ」
「そうする。……明日、蕎麦食べるの、楽しみ!」
この、おいしいものに対する情熱はどこから来るんだろう?
楓の笑顔を見ながら、弘樹はそう思い、たぶん、同じように思っているルーと顔を見合わせて微笑んだ。
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