第103話 蕎麦の花を見つけたよ②

 ミドリちゃんが目を覚ますと、《最果ての村》に向かった。


「ねえ、ルー。ルーのうちに行けてよかった」

「ほんとうにその通りだ」

「ルーのお父さんもお母さんも優しかった! 弟たちはかわいかったよ」

「……そうか。……そうだな。オレも、行けてよかった」

「うん!」

「カエデが行きたいって言わなかったら、きっとずっと行けなかったと思う」

「よかった!」

「不穏な気配の話を聞けたのもよかったし、それに、家族への誤解みたいなものが解けて、それがよかったかな、と思う。ありがとう、カエデ」

「うん」

 ミドリちゃんは低く、森の木々すれすれに飛び、それから上昇して高いところを飛んだ。

『あたしもこのタイミングでドラゴンの里に行けて、それから人狼のみんなと情報が共有出来てよかったよ』

「ミドリちゃん」


 タイミングがよかった。

 それは本当にそうだ、と楓は思った。

 あたし、ルーのうちに行きたいとはずっと前から思っていたけれど、今回どうしても行かなくちゃって思ったのは、あの不思議な声のせいなんだよね。

 楓は『たすけて』という声を思い出していた。

 不思議な声。

 男性とも女性ともとれる、声。

 あの声を聞いたら、どうしても行かなくちゃいけない気持ちになったんだ。


 楓はルーにもたれかかった。

 ふふふ。

 もふもふ、気持ちいい!

 人狼の里の人たちもみんな、もふもふだったなあ。

 だけど、ルーのもふもふが一番いいな。


『カエデちゃん、もうすぐ《最果ての村》に着くわよ』

「ほんとだ!」

 数日離れただけなのに、なんだか村が懐かしかった。ポータルを使って日本に行き、数日離れることはあった。だけど、こうしてミドリちゃんに乗って移動するのって、わくわくしていい! ポータルは、家の中から家の中への移動だから、旅っていう感じはしない。だけど、ミドリちゃんに乗って飛んで行くのって、景色が変わるのも見れるし、家が遠ざかるのも家に近づくのも見えて、そういうのがいいな。旅って感じがする。


 そんなことを楓が考えていると、家がぐんぐん近づいて来た。

 早くママに蕎麦の花の話をしたいな! そうして蕎麦を食べたい!

 楓は、「大事な話」をすっかり忘れて、蕎麦のことで頭の中をいっぱいにしていた。


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