5.またね! 絶対にまた来るから!

第77話 夏休みは終わりです!

 僕があれこれ、どうやって伝えたらいいか考えていたのに、彩香はあっさりと織子ちゃんに言った。


「織子。夏休みはもう終わりだから、そろそろ日本に帰るわよ」

「えー」

「えー、じゃないの」

「かえで、つまんない……」


 楓が言うと、フェルディナント様も「ぼくも」と言った。クリストフ王子は怒ったような顔をしていて、日本にいる弟の斗真のことを、僕は思い出した。

 僕はクリストフ王子の頭をぽんぽんと撫でて、「また連休のときに来るよ」と言った。

「なっ、オ、オレは別に……!」


「おりこちゃん、いつかえるの?」

 楓が彩香に言うと、彩香は「そうねえ、三日後かな? それでぎりぎりよ」と言った。

「じゃあ、かえで、みっかかん、おりこちゃんといっぱいあそぶ!」

「うん! いっぱい、遊ぼう! 何して遊ぶ? 計画立てなくちゃ」

 子どもたちは楽しそうに遊びの計画を立て始めた。



「なんだ、そんなに心配することもなかったな」

「子どもは逞しいからな」

 ルーがぽつりと言う。

「そうかも。あたしたち、いつの間にか大人になっちゃったんだねえ」

 彩香が少しさみしそうに言った。

「しかたないよ。だって、頑張ったよ、僕たち」

「そうだね」

「ヒロキたちがちゃんとしているから、カエデたちは元気にいられるんだと、オレは思う」

 ルーがそう言ったので、僕は彩香と顔を見合わせて笑った。


「ありがとう、ルー!」

「嬉しい! あ、ところでさ、あたし、ルーに聞きたいこと、あったんだよね」

「なんだ?」

「あたしね、このアルニタス全体の地図が欲しいの。だけど、王都にも正確な地図ってないんだよね。特に、《迷いの森》、《はじまりの草原》、《峻厳の山脈》、《清廉の泉》の辺りがあいまいなものしかないの。人間の街や村は書いてあるからいいけれど。だからね、ルーが分かる部分をいっしょに地図作って欲しいんだ。もちろん、ペガくんにもピンクちゃんにも聞くけどね。ルーはもしかして、《迷いの森》、詳しいんじゃない? 《峻厳の山脈》の麓も」

「ああ、そうだな。どちらも住んでいたから」

「じゃあさ、まずは《迷いの森》から地図作りに協力して?」

「いいよ」


「彩香、どうしたの、急に」

 僕が口を挟むと彩香は「急にじゃないよ。ずっと考えていたの。この世界をちゃんと知りたいなって思って」と言った。

「僕たちが呼ばれた理由を知りたいから?」

「それだけじゃなくて、ここで楽しく暮らしていくためにも、ちゃんと知っておいた方がいいって思ったの」

「なるほど」

「で、ルミアナや王都でいろいろ調べているんだけどね、地図がいまいちなんだよね」

「《迷いの森》なんか、そもそも迷うから地図も書けないよ」

「そうなのよ。でも、あたしは迷わないし」

「それは彩香だから」

「オレも迷わないぞ」

「それはルーがきっと、人狼と人間のハーフでそもそも《峻厳の山脈》の麓に住んでいたからだと思うよ」


 僕は、人間とルーたちとの違いは、寿命だけじゃないと改めて思った。

 彩香は……ちょっと、なんていうか、能力が附与され過ぎのような気が、する。幸運九十九って、なんていうか無敵の気がする。


「じゃあ、少しずつ、《迷いの森》の地図を作るってことでいいかな?」

「ああ」

 僕は、地図を作ったところで、果たして人間は本当に迷わないのかな? と考えていた。

「弘樹くん、地図があっても迷うって思ってるでしょ」

「な、な、なんで分かるの?」

「分かるわよ、だってつきあい長いもん! あのね、たぶんね、地図は人間には使えないと思う。でも、あたし、《迷いの森》のどこに何があるか、知りたいのよ。あの森、薬草の宝庫だし、珍しい植物がたくさん生えているのよ」

「へえ」

「まあ、極秘資料として誰にも見せないと思うけどね」

 彩香はにやっと笑った。


 そこに、子どもの勉強部屋であれこれ話し合っていた楓たちが、走ってやってきた。

「パパ、ママ! あのね、あたしたち、あした、もりにいきたい!」

「楓。もりって、もしかして、《迷いの森》?」

 僕はなんてタイムリーな! と思いながら訊いた。

「うん、そう! おりこちゃん、いったことがないからいきたいって!」

「えーと、子どもたちだけで行くのは危ないよ?」

「うん、だから、ルーといくの。ルーはまよわないよね⁉」

 楓は目をきらきらさせて、ルーを見た。

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